ADHD(注意欠如・多動症)について、「集中力がない」と説明されることがあります。しかし実際の現れ方は一つではなく、ぼーっとして話を聞き逃すように見える人もいれば、落ち着かず次々と別のことへ注意が移る人もいます。
一見すると「ぼーっとして動かない状態」と「落ち着きなく動き回る状態」は正反対に見えます。しかしADHDでは、不注意と多動・衝動性は別の症状領域として捉えられており、不注意が目立つ人、多動・衝動性が目立つ人、その両方がある人がいます。
ADHDの「集中できない」を単純に「ぼーっとする病気」または「落ち着きがない病気」のどちらか一方と考えないことが大切です。注意を持続する、不要な刺激から注意をそらさない、課題を最後まで続ける、行動を抑えるといった複数の面から理解すると、矛盾しているように見える症状を整理しやすくなります。
ADHDには「不注意」と「多動・衝動性」がある
米国国立精神衛生研究所(NIMH)は、ADHDを不注意、多動、衝動性を特徴とする神経発達症として説明しています。不注意には、課題へ集中し続けることの難しさ、話を聞き続けることの難しさ、整理や時間管理の難しさ、忘れ物、関係のない刺激や考えによって注意がそれることなどが含まれます。NIMH ADHD解説[参照]
一方、多動・衝動性では、手足を動かす、座っていることが難しい、落ち着かない感覚がある、しゃべりすぎる、順番を待ちにくい、相手の話へ割り込むといった特徴がみられることがあります。
そして重要なのが、すべてのADHDの人に同じ症状が同じ程度で現れるわけではない点です。NIMHでも、不注意が中心の人、多動・衝動性が中心の人、両方の症状がある人がいると説明されています。NIMH ADHD概要[参照]
「ぼーっとする」ように見える不注意とは
不注意が強く現れると、外からは「ぼーっとしている」「上の空になっている」「話を聞いていない」ように見えることがあります。ただし本人が意図的に何も考えていないとは限りません。
例えば授業を聞いている途中で窓の外の音が気になり、そこから別のことを考え始め、気付いたときには授業がかなり進んでいたという形があります。職場でも説明を聞いていたはずなのに途中から別の考えへ注意が移り、重要な部分を聞き逃すことがあります。
つまり「ぼーっとする」という表現は、ADHDの不注意の一部を外側から表現した言葉にすぎません。不注意はほかにも、細かいミスが多い、長い文章を読み続けにくい、作業を最後まで終えにくい、物をなくしやすい、予定を忘れるといった形で現れることがあります。
落ち着きなく注意が移ることも「集中できない」につながる
もう一つ分かりやすいのが、何かを始めても別の刺激へ注意が移ってしまう状態です。机に向かって勉強を始めた直後に通知が気になり、スマートフォンを触り、途中で別の用事を思い出し、気付けば最初の勉強が止まっている、といった例があります。
この場合、本人はぼーっとしているわけではありません。むしろ次々と別のことをしているため、非常に活動的に見えることもあります。しかし本来続ける必要がある一つの課題に注意を維持するという意味では、やはり困難が生じています。
大人の場合、子どものように走り回る形の多動が目立たなくなっても、「じっとしていると落ち着かない」「常に何かをしていたい」「複数のことへ手を出してしまう」といった形になることがあります。NIMHも、成人では落ち着かなさや複数のことを同時にしようとする行動などがみられることを説明しています。NIMH 成人ADHD解説[参照]
「ぼーっとする」と「落ち着かない」は矛盾しない
「静かにぼーっとしている」と「落ち着きなく動いている」だけを比較すると、確かに正反対です。しかしADHDの症状を「活動量が多いか少ないか」という一本の軸だけで考えると分かりにくくなります。
不注意と多動・衝動性を分けて考えると整理できます。例えば、ある場面では話から注意がそれて上の空になり、別の場面では待ち時間に落ち着かず動き続けることもあり得ます。同じ人の中で不注意と多動・衝動性がみられること自体は矛盾ではありません。
| 見た目 | 起きている可能性があること |
|---|---|
| ぼーっとしている | 話や課題から注意がそれている |
| 次々と別のことをする | 一つの課題へ注意を維持しにくい |
| そわそわしている | 多動・落ち着かなさが現れている |
| 途中で作業をやめる | 持続的な注意や課題完遂が難しい |
| 話へ割り込む | 衝動性が関係している可能性がある |
したがって、「静かな不注意」と「活動的な多動・衝動性」は別々に評価する必要があります。
ADHDは「集中力がゼロ」という意味ではない
ADHDという名称から「何に対しても集中できない」と思われることがありますが、それも正確ではありません。診断上問題になるのは、必要な課題への注意を持続しにくい、気がそれやすい、課題を完了しにくいなどの持続的なパターンです。
例えば好きなゲームや趣味なら長時間続けられる一方、興味を持ちにくい事務作業や宿題では何度も注意がそれるということがあります。「好きなことに集中できるならADHDではない」と単純には判断できません。
ただし、インターネット上でよく使われる「過集中(ハイパーフォーカス)」という言葉だけでADHDを判断することもできません。ADHDの診断では、特定の一場面ではなく、幼少期からの経過や複数の生活場面での症状、生活への支障などを総合的に評価します。
注意力の問題はADHD以外でも起こる
「ぼーっとする」「集中できない」「落ち着かない」という症状があるだけでADHDと自己診断することはできません。睡眠不足、強いストレス、不安、抑うつなどでも集中力は低下します。
NIMHも、睡眠障害、不安、うつ病などがADHDと似た症状を引き起こすことがあり、診断には医療専門家による十分な評価が必要だと説明しています。NIMH 診断について[参照]
特に「最近になって突然集中できなくなった」という場合は、幼少期から症状が始まるADHDだけを前提にせず、睡眠、心身の状態、薬の影響なども含めて考える必要があります。
日常生活で困る場合は「集中力」という言葉を具体化する
医療機関などへ相談するときは、「集中力がありません」だけではなく、具体的にどのような場面で困るかを整理すると役立ちます。
例えば「会議の途中から内容が頭に入らなくなる」「書類作成中に別の作業を始めてしまう」「5分程度でも座っていると落ち着かない」「期限を忘れる」「好きな作業は続くが単調な作業を最後まで終えられない」といった形です。
いつからあるのか、学校・家庭・職場など複数の場所で起きるのか、睡眠不足のときだけ悪化するのかといった情報も重要です。ADHDかどうかを一つの特徴だけで決めるのではなく、症状の組み合わせと生活への影響を確認することが適切な理解につながります。
まとめ:ADHDでは「ぼーっとする」と「落ち着かない」の両方があり得る
ADHDの「集中力がない」という表現には複数の状態が含まれます。不注意が目立つ場合は、ぼーっとしているように見えたり、話を聞き逃したり、作業から注意がそれたりすることがあります。一方、多動・衝動性が目立つ場合は、じっとしていにくい、次々と行動する、待つことが難しいといった特徴が現れることがあります。
「ぼーっとする」と「落ち着きなく動く」は見た目としては反対でも、ADHDでは不注意と多動・衝動性という異なる症状として両立し得るため、医学的には矛盾するものではありません。また、不注意が中心の人、多動・衝動性が中心の人、その両方がみられる人がいるため、ADHDの現れ方には個人差があります。
さらに、集中できないこと自体は睡眠不足やストレス、不安、抑うつなどでも起こります。ADHDかどうかを考える場合は、「集中できる・できない」という一点だけではなく、幼少期からの経過、複数の場面での症状、日常生活への支障などを含めて専門家に評価してもらうことが重要です。


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