20代で転職を何度も経験したり、頑張れる時期とまったく動けない時期の差が大きかったりすると、「自分はこの先も働けないのではないか」「人生を立て直せないのではないか」と感じることがあります。しかし、職歴の数だけを見て、その後の人生や働き方まで決まったと考える必要はありません。
特に双極性障害と診断されている場合、仕事上の波を単純に「根性」「飽きっぽさ」「忍耐力」の問題だけで説明するのは適切ではありません。双極性障害では躁・軽躁状態とうつ状態などによって活動性や判断、睡眠、仕事への取り組み方が変化することがあり、治療と生活リズムの安定を仕事選びと並行して考えることが重要です。国立精神・神経医療研究センター「双極性障害」[参照]
そして「常にうっすら死にたい」と感じている状態は、仕事の悩みだけとして片付けないことが大切です。将来のキャリアを立て直すことより、まず治療と安全を確保することが優先される時期があります。回復とは、いきなり普通に働ける状態へ戻ることだけではなく、症状を安定させ、自分に合う生活と働き方を少しずつ作る過程でもあります。
双極性障害では「頑張れる時と頑張れない時」の差が仕事に影響することがある
双極性障害は、単なる日常的な気分の浮き沈みとは異なります。国立精神・神経医療研究センターは、活動的な躁状態と憂うつで無気力なうつ状態を繰り返す病気と説明しており、治療には薬物療法と心理社会的アプローチがあるとしています。こころの情報サイト[参照]
例えば調子が上向いている時期には、「今なら何でもできる」と感じて仕事を増やしたり、転職を即決したりする一方、うつ状態になると出勤や身支度そのものが非常につらくなることがあります。ただし、個人の具体的な行動が躁・軽躁・うつ状態によるものかどうかは、本人だけで断定せず主治医と確認することが大切です。
「調子がいい時の自分」を通常状態だと思って仕事量を決めると、そのペースを維持できなくなることもあります。逆に、うつ状態の自分だけを基準に「何もできない人間だ」と評価するのも適切ではありません。調子の良い日と悪い日の両方を含めて持続可能な働き方を考えることがポイントになります。
20代で転職回数が多くても人生が決まるわけではない
アルバイトを含めて複数の職場を経験していると、転職回数そのものが大きな失敗に感じられることがあります。しかし、24歳や20代という年齢で職歴が多いことと、今後ずっと仕事が続かないことは同じ意味ではありません。
重要なのは「7社辞めた」という数字だけではなく、それぞれの職場を辞める直前に何が起きていたのかを整理することです。仕事内容が合わなかった、人間関係で消耗した、勤務時間が不規則だった、睡眠時間が短くなった、急に仕事量を増やした、体調が悪化して出勤できなくなったなど、繰り返しているパターンが見つかることがあります。
例えば「最初の1~2か月は非常に頑張る→残業や予定を増やす→睡眠が崩れる→突然動けなくなる→退職」というパターンが毎回似ているなら、次の仕事では最初から100%以上で走らないことが対策になります。職歴を責める材料ではなく、自分が安定して働ける条件を探すための記録として見直す考え方もできます。
仕事を探す前に「気分・睡眠・仕事」の記録をつける
双極性障害では、本人が躁状態や軽躁状態に気づきにくいことがあります。国立精神・神経医療研究センターも、本人だけでなく周囲が日頃の様子や気分の波を見守ることの重要性を説明しています。双極性障害の解説[参照]
そこで役立つのが、気分だけではなく睡眠時間、勤務時間、欠勤、疲労、活動量などを簡単に記録する方法です。細かな日記を書く必要はなく、「睡眠6時間・気分普通・仕事8時間・疲労強め」といった短い記録でも傾向を見る材料になります。
特に「睡眠が急に短くなっても元気」「予定や仕事を次々増やす」「出費が増える」「急に自信が強くなる」といった変化や、反対に「起きられない」「何をしても楽しくない」「仕事へ行けない」「死にたい気持ちが強くなる」といった変化があれば主治医へ共有します。自己判断で薬を中断・増減するのではなく、記録を診察に持参して治療方針を相談するほうが安全です。
「仕事を続ける」より「続けられる条件」を探す
仕事が長続きしない人ほど、「次こそ絶対に辞めない」と考えがちです。しかし、目標を勤続年数だけにすると、症状が悪化していても無理を続けることがあります。
そこで、勤務日数、勤務時間、通勤時間、残業、仕事内容、人との関わり、休憩の取りやすさなどを分けて考えます。週5日・フルタイムが難しい時期なら、治療状況や生活事情に応じて短時間勤務など負荷の小さい働き方から検討する方法もあります。
例えば「接客そのものは好きだが8時間勤務が続くと崩れる」という場合、職種を完全に変えるより勤務時間を調整する方法があります。「仕事はできるが通勤で消耗する」という場合には、勤務地や働き方が重要になります。職種だけでなく、どの程度の負荷なら数か月・数年単位で維持できるかを見ることが大切です。
退職・転職の大きな決断は調子の波も考慮する
双極性障害では気分の状態によって判断が変化する可能性があるため、重要な決断をするときには「今の判断は数週間前の自分でも同じだったか」と確認する方法があります。
例えば非常に活動的な時期に「もっと大きな仕事ができる」と突然退職したくなった場合や、強いうつ状態で「自分には価値がないから辞めるしかない」と感じた場合には、可能であれば即日決断せず主治医や信頼できる人へ相談します。
もちろん、ハラスメントや安全上の問題など、早く職場から離れたほうがよいケースもあります。すべての退職を病気のせいにするのではなく、職場環境と症状の両方を分けて考えることが重要です。
「死にたい」が常にある場合は診察でそのまま伝える
「死にたいけれど実行するつもりはない」「なんとなく消えたいだけ」という状態でも、主治医へ伝えてよい重要な症状です。双極性障害では自殺リスクへの注意が必要であり、厚生労働省の「こころの耳」でも双極性障害について積極的に専門家の治療を受けることが勧められています。厚生労働省「こころの耳」[参照]
診察では「常にうっすら死にたい」「最近は1日何回くらい考える」「具体的な方法まで考えることがある」「一人になると危ない気がする」など、できる範囲で具体的に伝えます。医師はこうした情報も含めて現在の状態や治療を判断します。
もし「今から自分を傷つけそう」「具体的な方法や準備があり実行する可能性がある」「すでに大量服薬や自傷をした」という状態なら、通常の次回診察を待つ段階ではありません。一人にならず、危険な物や大量の薬から距離を取り、身近な人へ助けを求め、緊急性が高ければ119番へ連絡してください。
相談は「限界になってから」だけ使うものではない
家族や友人には話しにくい場合、公的な相談窓口を利用することもできます。厚生労働省の「こころの耳」では、働く人やその家族を対象として電話・SNS・メールによる相談窓口を案内しています。匿名・無料で利用できる窓口もあります。こころの耳 相談窓口[参照]
また厚生労働省は、自殺対策の相談先として「こころの健康相談統一ダイヤル」など複数の窓口を案内しています。電話が苦手な場合にはSNS・チャット相談も含め、自分が利用しやすい方法を探せます。厚生労働省・電話相談窓口[参照]
相談窓口は「今すぐ自殺しそうな人だけ」が使うものではありません。「死にたい気持ちが続いていて疲れた」「仕事を辞め続けて将来が怖い」といった段階でも相談できます。一方、差し迫った危険がある場合は相談窓口の順番待ちより119番など緊急の支援を優先します。
回復は「二度と落ち込まない状態」だけを意味しない
双極性障害のある人にとって、回復を「もう二度と気分が落ち込まず、週5日ずっと働き続けられること」と設定すると、少し調子を崩しただけで失敗に感じてしまいます。
実際には、気分の変化へ以前より早く気づける、睡眠が崩れたら予定を減らせる、主治医へ早めに相談できる、自分に合わない職場の特徴が分かる、無理のない仕事量を選べるといった変化も重要です。厚生労働省の「こころの耳」には、働く人向けの相談だけでなく職場復帰に関する情報も用意されています。こころの耳・働く方へ[参照]
「どん底から一気に這い上がる」というより、治療を続けながら生活を整え、悪化のサインを覚え、自分に合う仕事の条件を見つけることで、以前より安定した期間を増やしていくイメージのほうが現実的です。
他人の回復体験は希望になるが、そのまま真似しなくてよい
同じような経験をした人の体験談は、「自分だけではない」と感じる助けになることがあります。厚生労働省の「こころの耳」にも、こころの病気の克服体験や職場復帰に関するコンテンツがあります。こころの耳[参照]
ただし、ある人が「仕事を辞めたら回復した」「この仕事なら続いた」「薬を変えたら良くなった」という経験をしていても、それが別の人にも当てはまるとは限りません。特に薬の中断・変更については体験談を参考に自己判断せず、必ず主治医へ相談します。
体験談から参考にしやすいのは治療内容そのものより、「悪化する前に休むようになった」「睡眠を優先した」「フルタイムにこだわらなくなった」「一人で抱え込まず相談するようになった」といった生活上の工夫です。
まとめ:転職回数ではなく、治療と「続けられる条件」を整えていく
20代で転職を何度も経験していても、その回数だけで今後の人生が決まるわけではありません。双極性障害がある場合には、頑張れる時期と動けない時期の差を意志の弱さだけで捉えず、治療、睡眠、生活リズム、仕事量、職場環境を一緒に見直すことが重要です。
次の仕事では「絶対に辞めない」を唯一の目標にするより、過去の退職前に共通していた状況を整理し、無理なく続けられる勤務時間や仕事内容を探していきます。調子の良い時に頑張りすぎないことも、長く働くための大切な工夫です。
そして、「死にたい」という気持ちが日常的にあるなら、仕事探しだけで解決しようとせず、その言葉をそのまま主治医へ伝えることが大切です。具体的な自傷・自殺の計画や準備がある、今すぐ実行しそう、すでに自分を傷つけたという場合には一人で抱えず、119番など緊急の支援につながってください。人生を立て直すことは、いきなり元気になることではなく、安全を確保し、治療を続けながら、自分が安定して暮らせる日を少しずつ増やしていくところから始められます。


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