健康保険料を毎月支払っていると、病院をあまり利用しない人ほど「保険料を払っているのだから、病院に行かなければ損なのでは?」と感じることがあります。一方、体調を崩しやすい人や持病のある人は医療機関を利用する機会が多いため、健康保険の恩恵を受けているように見えることもあるでしょう。
しかし、日本の公的医療保険は、支払った保険料と同額の医療サービスを取り戻すための仕組みではありません。病気やけがという予測しにくいリスクを社会全体で支える「保険」であることを理解すると、病院に行くほど得という考え方とは少し違うことが分かります。
健康保険は「使った人ほど得をするポイント制度」ではない
健康保険は、加入者などが保険料を出し合い、病気やけがで医療が必要になった人の負担を支える社会保険制度です。そのため、健康でほとんど医療機関を利用しなかったとしても、支払った保険料が無駄になったという性質のものではありません。
例えば自動車保険に加入している人が、保険料の元を取るために事故を起こそうとは考えないでしょう。健康保険も完全に同じ仕組みではありませんが、「保険事故が起きなかったこと自体は損ではない」という点では似ています。
現在健康な人でも、突然の病気、けが、入院などによって高額な医療費が必要になる可能性があります。そうした予測できない事態への備えとして公的医療保険が機能しています。
病院へ行けば健康保険料の「元が取れる」とは限らない
健康保険が適用される診療でも、一般的には患者本人にも年齢や所得などに応じた自己負担があります。そのため、必要のない受診を増やせば、その分だけ自分が支払う医療費や交通費、通院時間なども増えることになります。
例えば「保険料を払っているから念のため毎月病院へ行こう」と考えても、診察や検査に自己負担が発生すれば家計からの支出は増えます。健康保険を利用した金額が大きくなったからといって、現金が戻ってきて利益になるわけではありません。
健康保険は「たくさん利用した人への特典」ではなく、必要な医療を必要なときに受けやすくするための仕組みと考えると理解しやすいでしょう。
「不健康な人ほど健康保険に加入する」という仕組みでもない
日本では、原則としてすべての人が何らかの公的医療保険に加入する国民皆保険制度が採られています。会社員などが加入する健康保険、自営業者などが加入する国民健康保険、一定年齢以上を対象とした後期高齢者医療制度など、立場に応じた制度があります。
したがって、民間の任意保険のように「病気になりそうだから健康保険へ加入する」「健康だから加入しない」という選択を基本とする制度ではありません。健康状態の異なる多くの人が制度に参加することで、医療費のリスクを社会全体で支えています。
健康な時期には他の加入者を支える側になり、将来自分が病気やけがをしたときには支えられる側になる可能性があります。この相互扶助の考え方が、公的医療保険を理解するうえで重要です。
では、どんなときに病院へ行けばいい?
基本的な考え方はシンプルで、医療上の必要性があるときに適切に受診することです。「保険料の元を取りたいから受診する」「保険料がもったいないから症状があっても受診しない」という両極端な判断はおすすめできません。
例えば、症状が続いている、急激に悪化した、日常生活に支障が出ているなどの場合には、医療機関への相談を検討することになります。胸の強い痛み、呼吸困難、意識障害など緊急性が疑われる症状では、費用の損得より迅速な医療につなげることが重要です。
反対に、特に症状もなく医学的な必要性もないのに「せっかく保険料を払ったから」という理由だけで診療を受けることは、健康保険本来の目的とは異なります。
病気になる前の健康管理にも目を向ける
「病院を利用しなかったから損」と考えるより、健康な状態を長く維持できたことを大きなメリットとして捉える方が合理的です。病気になれば医療費だけでなく、仕事を休むことによる影響や生活の制限など、金額では測りにくい負担も生じます。
健康診断や自治体・保険者が実施する健診など、対象となる制度を適切に利用することも大切です。健康保険制度には病気になった後の治療だけではなく、健康保持や疾病予防につながる取り組みもあります。
特に生活習慣病のように初期には自覚症状が乏しいものもあるため、「症状がないから一切チェックしない」という考え方にも注意が必要です。年齢や健康状態に応じた健診や医師から勧められた検査を活用しましょう。
医療費が高額になった場合を支える仕組みもある
公的医療保険の重要性が分かりやすい例の一つが、高額な治療が必要になった場合です。日本の公的医療保険には、1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた場合に負担を抑える高額療養費制度があります。上限額は年齢や所得などによって異なります。
普段ほとんど病院に行かない人でも、手術や長期治療などが突然必要になる可能性はあります。そのようなとき、医療費負担が際限なく大きくならないよう支えることも公的医療保険の重要な役割です。
制度の詳細や最新の条件については、加入している健康保険組合、全国健康保険協会、市区町村などの公式情報を確認することが大切です。
「病院に行かないと損」ではなく「必要なときに利用できること」が価値
健康保険について考える際は、年間の保険料と自分が利用した医療費だけを比較すると「得・損」という発想になりがちです。しかし、保険の価値には、将来高額な医療が必要になった場合にも一定の負担で医療へアクセスできるという安心も含まれています。
これは、健康な人から病気の人へ一方的にお金を渡しているという単純な関係でもありません。人は年齢や時期によって健康状態が変わり、誰でも支える側から支えられる側になる可能性があります。
そのため、健康なうちは健康を維持し、不調があれば必要に応じて受診することが、本人にとっても制度全体にとっても自然な利用方法といえます。
まとめ
健康保険は、病院をたくさん利用して支払った保険料の「元を取る」ための制度ではありません。病気やけがによって必要となる医療費のリスクを、多くの加入者で支える社会保険の仕組みです。
医療機関をほとんど利用しない期間が続いたとしても、それは必ずしも損を意味しません。むしろ健康で過ごせていることには、医療費だけでは測れない大きな価値があります。
「保険料を払ったから病院へ行く」のではなく、「医療が必要だから病院へ行く」という考え方が基本です。必要な受診を我慢することも、元を取る目的で不要な受診を増やすことも避け、健診や予防も含めて公的医療制度を適切に活用することが大切です。

コメント