ADHDでも不動産の賃貸仲介営業は続けられる?物忘れ・指示忘れを減らす仕事の工夫と働き方

発達障害

不動産の賃貸仲介営業は、接客、電話、物件確認、内見手配、申込書類、契約までの進捗管理など、複数の仕事を並行して進める場面が多い職種です。そのため、物忘れや指示の抜けが続くと「自分はこの仕事に向いていないのでは」「ADHDなのでは」と不安になることがあります。

ただし、仕事で忘れ物や聞き漏らしが多いという事実だけでADHDと判断することはできません。ADHDでは成人期に不注意や整理の苦手さが仕事上の問題として目立つことがありますが、睡眠不足、不安や抑うつ、強いストレス、仕事内容への不慣れなどでも似た状態は起こります。

また、ADHDと診断されたとしても、不動産営業を続けられないと決まるわけではありません。重要なのは職種名だけで適性を判断するのではなく、どの業務で失敗しやすいのかを分解し、記憶に頼らない仕組みを作れるかという点です。

物忘れが多いだけではADHDとは診断できない

ADHDは、不注意や多動性・衝動性の症状があり、それによって学校、仕事、家庭、社会生活などで困難が生じる発達障害の一つです。日本精神神経学会では、症状の一部が小さい頃から連続して存在し、そのために社会生活などで困っていることを確認したうえで診断すると説明しています。日本精神神経学会[参照]

成人になってから初めて「忘れっぽくなった」と感じた場合でも、仕事量が増えたことで、それまで目立たなかった特性が表面化することはあります。一方で、ADHDの診断では一般に子どもの頃からの様子も確認されます。CDCも、成人ADHDの評価では12歳より前から症状が存在したかを確認し、必要に応じて家族から情報を得たり、ほかの原因を除外したりすると説明しています。CDC・成人ADHD[参照]

そのため心療内科や精神科を受診するときは、「最近言われたことを忘れる」という現在の症状だけでなく、学生時代の忘れ物、提出期限、遅刻、片付け、授業への集中、アルバイトでの失敗なども思い出しておくと診察の参考になります。

ADHDでも不動産の賃貸仲介営業を続けることは可能

ADHDだから不動産営業に向いていない、あるいは営業職全般ができないという医学的な決まりはありません。日本精神神経学会も、ADHD傾向のある人の中には、高い活動性や積極性、決断力、集中力などが仕事の中で評価される場合があると説明しています。日本精神神経学会[参照]

賃貸仲介にも、初対面の人と話す、希望条件から物件を探す、内見をテンポよく案内する、短期間で多くの情報を集めるといった業務があります。こうした仕事を得意とする人もいます。一方、契約書類、期日、折り返し連絡、複数顧客の進捗管理などでは、不注意やワーキングメモリの負担が問題になりやすいことがあります。

「ADHDだから向いている・向いていない」ではなく、「接客はできるが進捗管理で抜ける」「電話指示を覚えていられない」など、自分の得意・不得意を業務単位で把握することが重要です。

賃貸仲介で特にミスが起こりやすい仕事を分解する

不動産仲介では、一人の顧客についても「希望条件を聞く→物件を探す→空室確認→内見予約→案内→申込→審査→契約準備→入居」という複数の工程があります。さらに複数の顧客を同時に担当すると、頭の中だけで管理することは誰にとっても難しくなります。

困りやすい場面 仕組み化の例
口頭で言われた指示を忘れる その場でメモし、復唱して確認する
折り返し電話を忘れる 電話終了と同時にタスク登録する
顧客ごとの進捗が混乱する 顧客ごとに次の一手と期限を1行で記録する
契約書類の抜けが出る 案件ごとに固定チェックリストを使用する
複数の指示が同時に来る 優先順位と期限を上司に確認する

例えば「○○物件の管理会社へ電話して、鍵の場所を確認したあと、Aさんへ連絡して」と口頭で言われた場合、記憶だけに頼らず「①管理会社へ電話 ②鍵確認 ③Aさんへ連絡」と即座に書きます。実行したら一つずつ消します。

こうした方法はADHDの人だけの特別な対策ではなく、不動産・医療・営業などミスの影響が大きい仕事で広く使われる基本的な業務管理方法です。

「メモを取る」だけでなく、メモを見る仕組みまで作る

物忘れ対策として「メモを取ればいい」と言われることがありますが、実際にはメモを取ったこと自体を忘れたり、メモが複数箇所に散らばったりする問題が起こります。そのため、重要なのはメモの量ではなく、情報の置き場所を固定することです。

例えば、業務上使用可能で会社のルールに反しない範囲で、タスクを一つの手帳や社内システムに集約します。「あとで入力しよう」ではなく、指示を受けた瞬間に記録するのがポイントです。個人情報や顧客情報を私物スマートフォンへ記録することは、会社の情報管理ルールに反する可能性があるため避けます。

さらに、口頭指示を受けたときは「確認ですが、今日中にA社へ電話して、回答を○○さんへ報告、で合っていますか」と復唱します。これによって聞き間違いと記憶違いの両方を減らせます。

新人のうちは「覚えられない」のか「業務量が多すぎる」のかも見極める

入社直後の賃貸仲介では、物件知識、社内ルール、管理会社ごとの対応、契約書類、電話応対など覚えることが非常に多くなります。新しい環境で指示を一度聞いただけですべて記憶できないこと自体は、必ずしも病的ではありません。

特に「前にも言ったよね」と言われる場面については、何を忘れているのかを分類してみると役立ちます。例えば「操作方法を何度説明されても覚えられない」のか、「電話対応中に別の指示が入ると前の指示が抜ける」のか、「知っているが焦ると実行できない」のかでは対処方法が異なります。

1~2週間ほど、「失敗した内容・そのときの状況・対策」を簡単に記録すると、自分のパターンが見える場合があります。診察時にも、単に「物忘れが多い」と伝えるより具体的な情報になります。

受診するときは仕事以外の経歴も伝える

ADHDの評価では、現在の職場だけを見るのではなく、子どもの頃から現在までの経過を確認することが重要です。CDCも、ADHDに似た症状は不安、うつ病、睡眠の問題、学習上の問題などでも起こり得るため、医学的・心理的な評価が必要になる場合があるとしています。CDC[参照]

受診前には、学生時代の通知表や家族から聞いた話があれば参考になります。また、「これまで何社かで同じような注意を受けた」「仕事内容が変わっても期限忘れが続いた」といった職歴も重要な情報です。

逆に、学生時代や以前の仕事では問題がなく、最近急激に物忘れが増えた場合には、睡眠不足、精神的な不調、過労など別の原因についても医師に相談する必要があります。

ADHDと診断された場合は治療と環境調整を組み合わせる

成人ADHDでは、本人の状態に応じて心理社会的な支援や薬物療法などが検討されます。日本精神神経学会は、成人では環境調整に加えて認知行動療法やコーチングなどが行われる場合があり、心理社会的治療と薬物療法を組み合わせることが望ましいと説明しています。日本精神神経学会[参照]

ただし薬を飲めば、指示管理や契約業務の仕組みが不要になるわけではありません。治療によって集中しやすくなったとしても、チェックリスト、予定表、リマインダー、復唱といった外部の仕組みを併用するほうが安定しやすくなります。

また、診断を受けた場合でも会社へ必ず診断名を伝えなければならないわけではありません。何をどこまで開示するかは、必要な配慮や雇用形態などを踏まえて医師や就労支援機関と相談して決める方法があります。

仕事を続けるために合理的配慮や就労支援を利用できる場合もある

障害のため仕事上の支障があり、職場へ障害を開示して必要な配慮を申し出る場合には、合理的配慮という考え方があります。厚生労働省によると、事業主には、障害のある労働者が能力を発揮するうえで支障となっている事情を改善するため、過重な負担にならない範囲で必要な措置を講じる義務があります。厚生労働省[参照]

例えば、口頭指示だけではなく文章でも確認できるようにする、業務の優先順位を明確にする、一度に多数の指示を出さず整理して伝える、といった方法が検討されることがあります。ただし、実際に可能な配慮は仕事内容や企業によって異なります。

厚生労働省は、発達障害のある人への就労支援として、ハローワークの精神・発達障害者雇用サポーター、地域障害者職業センターのジョブコーチ、障害者就業・生活支援センターなどを案内しています。現在の職場で働き続けるための相談も対象になる場合があります。厚生労働省・発達障害者の就労支援[参照]

転職を繰り返している場合も「自分に向いていない」で終わらせない

複数の職場で同じ理由による失敗や対人トラブルが続いている場合は、「根性が足りない」「どの仕事も向いていない」と結論づけるより、共通するパターンを探すほうが今後につながります。

例えば「接客評価は悪くないが事務処理で必ず抜ける」「電話が何本も同時に来る環境だと混乱する」「仕事内容より曖昧な指示を受けたときに失敗する」と分かれば、今の職場で改善できる可能性があります。反対に、十分な工夫や治療を行っても特定業務で重大なミスが続くなら、将来的に業務内容や職場環境を変えることも選択肢になります。

国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害者支援センターでは、職場で困っていることへの相談や就労支援を行い、必要に応じて就労先での作業工程や環境調整に関する助言につなげる場合があります。発達障害情報・支援センター[参照]

まとめ:ADHDかどうかと不動産営業を続けられるかは別の問題

仕事で物忘れや指示忘れが多いことは成人ADHDでみられる不注意症状と重なる部分がありますが、それだけでADHDとは診断できません。子どもの頃からの経過、複数の生活場面での症状、仕事への影響、ほかの精神的・身体的要因などを含めて医療機関で評価することが重要です。

もしADHDと診断されても、「不動産の賃貸仲介営業を辞めなければならない」という結論にはなりません。口頭指示を即座に記録する、復唱する、顧客ごとの次の行動と期限を一元管理する、契約業務をチェックリスト化するなど、記憶ではなく仕組みで仕事を管理することで改善できる部分があります。

そして、治療や工夫をしても困難が大きい場合には、主治医だけでなく、発達障害者支援センター、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどの支援を利用できます。大切なのは診断名だけで将来を決めることではなく、自分がどの場面でつまずき、どの環境なら能力を発揮しやすいのかを具体的に把握していくことです。

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