勤務先の病院を患者として受診したあと、自分の電子カルテを職員用のアカウントから閲覧できる環境にいると、「自分自身の情報なのだから見ても問題ないのでは」と考えることがあります。しかし、患者本人として自分の診療情報を見る権利があることと、職員として与えられた電子カルテのアクセス権限を使って自分のカルテを閲覧してよいことは、別の問題として考える必要があります。
厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」では、患者本人が診療記録の開示を求めた場合、原則として医療機関はこれに応じるべきとされています。一方、医療情報システムでは職員に対して業務上必要な範囲でアクセス権限を付与し、アクセス状況を記録・管理することが求められています。[参照:厚生労働省 診療情報の提供等に関する指針]
そのため、自分のカルテであっても、院内規程で「患者として正式な手続きから閲覧する」と定められているなら、職員IDを使って勝手に開くことは避けたほうがよいでしょう。倫理だけでなく、病院の情報セキュリティ規程や就業規則に関わる可能性があります。
- 患者本人には自分の診療情報を知る権利がある
- 「自分の情報だから自由に開いてよい」とは限らない
- 医療情報へのアクセス権限は業務上必要な範囲が原則
- 自分のカルテを開いてもアクセスログに残る可能性が高い
- 電子カルテの監査では「なぜ見たのか」が重要
- 患者としての権利と職員としての権限は分けて考える
- 病院によっては「自己カルテ閲覧禁止」と明確に定めていることもある
- 院内規程が分からなければ情報管理部門へ確認する
- 自分の検査結果だけ確認したい場合も同じ
- 医師や看護師でも自分のカルテを自由に閲覧できるとは限らない
- 診療情報の開示請求という正式な方法がある
- カルテ開示までしなくても主治医へ説明を求められる
- 患者向け電子カルテ・PHRがあるならそちらを利用する
- 自分のカルテでも他人の情報が含まれている場合がある
- カルテを自分で編集するのは絶対に避ける
- スクリーンショットや印刷にも注意が必要
- 同僚に「代わりに見てもらう」のも避ける
- 家族や友人のカルテを見るのはさらに明確に避けるべき
- 個人情報保護の観点でも目的外利用を避けることが重要
- 「法律違反か」「倫理的に悪いか」だけで考えないほうがよい
- すでに自分のカルテを見てしまった場合はどうする?
- 勤務先で受診するならプライバシー面も確認しておく
- 自分のカルテを安全に確認する方法
- 院内ルールで確認したいポイント
- まとめ:自分のカルテを知る権利はあるが、職員IDで勝手に閲覧してよいとは限らない
患者本人には自分の診療情報を知る権利がある
まず大前提として、自分の病状、検査結果、治療内容などについて知りたいと思うこと自体には問題ありません。厚生労働省は、患者と医療従事者が診療情報を共有することが医療の質や患者の自己決定に重要であるとして、患者本人から診療記録の開示を求められた場合には原則として応じるべきとしています。[参照:厚生労働省]
ここでいう診療記録には、診療録だけでなく、検査結果、画像、看護記録、処方せん、手術記録など診療過程で作成された記録が含まれます。
したがって、「自分のカルテの内容を確認したい」という目的そのものが倫理的に悪いわけではありません。問題になるのは、どの立場で、どの権限を使い、どの手続きを通して閲覧するかです。
「自分の情報だから自由に開いてよい」とは限らない
電子カルテに記録されている情報の本人は自分ですが、電子カルテシステム自体は病院が管理しています。職員へ発行されているIDやパスワードも、通常は業務を行うために付与されたものです。
つまり、職員用アカウントで電子カルテを閲覧できることは、「システム上開ける」という意味であって、「どの患者の情報でも自由に開いてよい」という意味ではありません。
これは自分のカルテについても同様です。病院の規程で自己カルテ閲覧が明示的に認められている場合を除き、業務上の必要性がない状態で職員権限を使用すると、目的外アクセスと判断される可能性があります。
医療情報へのアクセス権限は業務上必要な範囲が原則
厚生労働省は2026年6月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」を公表しており、医療機関に対して医療情報システムを適切に管理するよう求めています。[参照:厚生労働省 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版]
医療情報のセキュリティでは、「必要な人が必要な情報へ必要な範囲でアクセスする」という考え方が基本です。過去の厚生労働省ガイドラインでも、情報区分とアクセス権限に基づいて閲覧可能な診療録の範囲を定め、誰がいつ誰の情報へアクセスしたのかを記録することが示されています。[参照:厚生労働省 医療情報システム安全管理資料]
そのため、「患者本人だから」という理由だけで職員としての業務上必要性が自動的に生じるわけではありません。
自分のカルテを開いてもアクセスログに残る可能性が高い
多くの電子カルテシステムでは、誰が、いつ、どの患者の情報を閲覧したかというアクセスログが記録されています。
厚生労働省のガイドラインでも、個人情報を含む医療情報へのアクセス状況を記録し、不正利用がないか確認することが重要とされています。[参照:厚生労働省]
したがって、自分のカルテを職員用IDから開いた場合も、「本人だからログから除外される」という仕組みとは限りません。監査時にアクセス理由を確認される可能性があります。
電子カルテの監査では「なぜ見たのか」が重要
電子カルテへのアクセスが適切だったかを確認するとき、単に「その職員がアクセス権限を持っていたか」だけではなく、業務上その患者情報を見る必要があったかが重要になります。
例えば、自分が担当している患者の検査結果を確認するためにカルテを見るのと、興味本位で同僚や有名人のカルテを見るのでは、同じ閲覧機能を使っていても意味が全く違います。
自己カルテの場合は他人のプライバシー侵害とは性質が違うものの、「業務用アカウントを私的目的で使用したか」という観点が残ります。そのため院内ルールの確認が必要です。
患者としての権利と職員としての権限は分けて考える
この問題を理解するには、患者と職員という2つの立場を分けると分かりやすくなります。
| 立場 | 診療情報を見る方法 |
|---|---|
| 患者として | 診察時の説明、患者向けアプリ、検査結果の交付、診療情報開示請求など |
| 職員として | 担当業務の遂行に必要な範囲で電子カルテを閲覧 |
患者としては自分の情報について開示を求めることができます。しかし、その権利があることと、職員として使っているシステム権限を自由に利用できることは同義ではありません。
例えるなら、銀行員が自分の銀行口座の残高を知る権利を持っていても、職員用の銀行システムを私用で操作してよいとは限らないのと似ています。
病院によっては「自己カルテ閲覧禁止」と明確に定めていることもある
具体的な運用ルールは医療機関によって異なります。病院によっては、職員が本人・家族・知人のカルテを業務目的以外で閲覧することを明確に禁止しています。
一方、本人の自己カルテ閲覧について一定の手続きや条件を設けて認めている医療機関も考えられます。したがって全国一律に「自分なら必ず閲覧可」「自分でも必ず禁止」と断定することはできません。
最優先すべきなのは勤務先の情報セキュリティポリシー、電子カルテ利用規程、個人情報保護規程、就業規則などです。
院内規程が分からなければ情報管理部門へ確認する
ルールが分からない場合は、電子カルテを開いてから考えるより、先に医療情報部、情報システム担当、診療情報管理室、個人情報保護担当などへ確認するのが安全です。
質問するときも「自分のカルテを見たいのですが、職員IDから閲覧してよいですか。それとも患者として開示手続きが必要ですか」と聞けば目的が明確です。
直属の上司が規則を正確に把握しているとは限らないため、電子カルテのアクセス管理を担当している部署へ確認できるならそのほうが確実です。
自分の検査結果だけ確認したい場合も同じ
「全部のカルテではなく、採血結果だけならいいのでは」と考えることもあります。しかし、電子カルテ上では検査結果も診療情報の一部です。
職員向け画面へログインして確認する以上、アクセス権限の目的という点では同じ問題が生じます。
患者向けアプリや結果説明書など正式な確認方法が用意されているなら、そちらを使用するほうが安全です。
医師や看護師でも自分のカルテを自由に閲覧できるとは限らない
医療職であれば電子カルテの操作に慣れているため、「内容も理解できるし、自分自身なら問題ないだろう」と感じることがあります。しかし職種によって自己カルテ閲覧が特別に自由になるわけではありません。
厚生労働省の医療情報管理に関する考え方では、医師、看護師、薬剤師、技師、事務職員など職種を問わず、個人情報を業務上必要な範囲で扱うことが基本です。
医師であっても、自分の診療記録について正式な診療とは別に職員用IDから自由に参照できるかは勤務先の規程次第です。
診療情報の開示請求という正式な方法がある
自分の診療内容を詳しく確認したい場合には、診療記録の開示を申し込む方法があります。
厚生労働省の指針では、患者本人が診療記録の開示を求めた場合には原則として応じることとされ、医療機関側は開示申請の方法や本人確認などの手続きを定めることとされています。[参照:厚生労働省 診療情報の提供等に関する指針]
病院によっては診療情報管理室などへ申請し、カルテのコピー、検査データ、画像などを受け取ることができます。費用がかかる場合もあります。
カルテ開示までしなくても主治医へ説明を求められる
単純に診断名や検査結果を知りたいのであれば、必ずしもカルテ開示請求まで行う必要はありません。
診察時に担当医へ「採血結果を詳しく知りたい」「カルテに記載された診断について確認したい」と質問することもできます。
厚生労働省の診療情報提供指針でも、診療情報の提供方法には口頭説明、説明文書の交付、診療記録の開示など複数の方法が含まれています。[参照:厚生労働省]
患者向け電子カルテ・PHRがあるならそちらを利用する
医療機関によっては、患者向けアプリやWebサービスを通じて検査結果、処方内容などを確認できる仕組みがあります。
こうした患者向け機能は、患者本人が情報を閲覧するために設計されたものなので、職員向け電子カルテを業務外で閲覧する問題が起こりにくくなります。
勤務先に患者ポータルやPHRサービスがある場合は、まず利用できないか確認するとよいでしょう。
自分のカルテでも他人の情報が含まれている場合がある
診療記録はすべてが本人だけの情報とは限りません。紹介状、家族から得た情報、医療従事者間の記録などに第三者に関する内容が含まれている場合があります。
このため診療情報の正式な開示では、患者本人からの請求であっても、第三者の利益を害する可能性などを考慮して一部が非開示となる場合があります。
つまり「自分のカルテだから中に入っている情報はすべて無条件で自由に見られる」というほど単純ではありません。
カルテを自分で編集するのは絶対に避ける
自己カルテを閲覧できる職種では、システム上は記載や訂正まで可能な場合があります。しかし、自分自身の診療記録へ勝手に追記・削除・修正することはさらに重大な問題になります。
厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」では、診療記録の訂正は訂正者、内容、日時などが分かるように行う必要があり、不当な改ざんを行ってはならないとされています。[参照:厚生労働省]
記載内容に誤りを見つけた場合は自分で修正せず、担当医や診療情報管理部門へ申し出てください。
スクリーンショットや印刷にも注意が必要
電子カルテを閲覧できたとしても、画面をスマートフォンで撮影したり、自宅へ持ち帰るため印刷したりする行為は別の情報管理上の問題を生む可能性があります。
病院では端末画面の撮影や個人情報の院外持ち出しについて厳格な規程を設けていることがあります。
自分の情報だけ欲しい場合でも、正式な診療情報開示や患者向けサービスを利用したほうが、情報管理上のトラブルを避けられます。
同僚に「代わりに見てもらう」のも避ける
自分で開くのが気になるからと、同僚へ「私のカルテをちょっと見て検査結果を教えて」と頼む方法も適切とは限りません。
その同僚に業務上あなたの診療情報を見る必要がなければ、今度は同僚側の目的外閲覧になり得ます。
本人が了承していても、医療機関の情報システム利用規程上許可されるとは限りません。正規の患者向け経路を使うことが基本です。
家族や友人のカルテを見るのはさらに明確に避けるべき
自己カルテについては「本人の情報だから」という特殊な事情がありますが、家族、友人、同僚、有名人などのカルテについては、業務上の必要性がない状態で閲覧すべきではありません。
患者本人から口頭で「見ていいよ」と言われたとしても、それだけで病院の業務用システムから自由にアクセスできるとは限りません。
医療情報は極めてセンシティブな個人情報であるため、担当患者など業務上必要な範囲に限定して取り扱うことが重要です。
個人情報保護の観点でも目的外利用を避けることが重要
厚生労働省と個人情報保護委員会の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」では、医療機関が保有する個人情報について利用目的を適切に定め、その範囲で取り扱うことが求められています。[参照:厚生労働省 医療・介護関係事業者の個人情報ガイダンス]
医療機関の職員には、このような規則に従って患者情報を取り扱う責任があります。
自分のデータの場合には他人への漏えいとは違いますが、職員用のシステムを本来の業務目的とは異なる目的で使ったかどうかという内部統制上の問題は残ります。
「法律違反か」「倫理的に悪いか」だけで考えないほうがよい
自己カルテ閲覧については、「絶対に違法なのか」「倫理的に悪人なのか」という二択で考えるより、病院の権限管理の問題として捉えるほうが分かりやすいでしょう。
患者本人には診療記録を知る権利があります。そのため、自分の健康情報を確認したいという行為そのものを不適切と考える必要はありません。
一方、その権利を行使するための正規ルートが用意されているのに、業務用の職員アカウントを私的に使用すれば、院内規程違反と判断される可能性があります。問題の中心は「誰の情報か」だけでなく「どの権限を何の目的で使ったか」です。
すでに自分のカルテを見てしまった場合はどうする?
すでに一度自分のカルテを閲覧してしまったとしても、慌てて履歴を消そうとしたり、システムへ追加操作したりするのは避けましょう。通常、職員側からアクセスログを消すことはできませんし、ログを操作しようとすれば問題を大きくする可能性があります。
勤務先で自己カルテ閲覧のルールが分からないのであれば、今後は閲覧を控え、情報管理部門などへ規程を確認する方法があります。
明確に禁止されている規程に気付いた場合の対応は各病院の内部ルールによって異なるため、必要に応じて情報セキュリティ担当や上司へ相談してください。
勤務先で受診するならプライバシー面も確認しておく
職場の病院を患者として利用すると、同僚が診療情報へアクセスできることに不安を感じる場合があります。
しかし医療機関では、職員だから自由に同僚のカルテを見てよいわけではありません。アクセス権限やログ管理などによって、不適切な閲覧を防ぐ仕組みが求められています。
プライバシーについて特に不安がある場合は、診療情報管理室や個人情報相談窓口へ、職員患者のカルテへのアクセスがどのように管理されているか確認してみてもよいでしょう。
自分のカルテを安全に確認する方法
| 方法 | 特徴 |
|---|---|
| 診察時に医師へ質問する | 最も簡単で、医学的な説明も受けられる |
| 検査結果の紙をもらう | 数値を自宅で確認しやすい |
| 患者向けアプリ・ポータル | 病院が対応していれば正規にオンライン閲覧できる |
| 診療情報開示請求 | 診療録などを正式に閲覧・取得できる |
| 職員用電子カルテから閲覧 | 院内規程で認められているか事前確認が必要 |
単純に結果を知りたいだけなら、上から順に利用できる方法を検討するとよいでしょう。
特に職員用電子カルテについては、「アクセスできるから使う」のではなく「その利用方法が病院から認められているか」を確認することが重要です。
院内ルールで確認したいポイント
自己カルテ閲覧について確認するときは、次のような項目を見ると判断しやすくなります。
- 自己カルテの閲覧について明示的な規定があるか
- 家族・知人のカルテ閲覧をどう規定しているか
- 電子カルテの私的利用を禁止しているか
- アクセスログをどのように監査しているか
- 患者として診療情報を確認する正式な方法は何か
- 職員患者向けの特別な手続きがあるか
研修資料、情報セキュリティマニュアル、電子カルテ利用規程などに書かれている場合があります。
見つからない場合は情報管理担当へ聞けば、最も確実な回答を得られます。
まとめ:自分のカルテを知る権利はあるが、職員IDで勝手に閲覧してよいとは限らない
病院職員が勤務先を患者として受診した場合でも、自分の診療情報を知りたいと思うこと自体に問題はありません。厚生労働省の指針でも、患者本人から診療記録の開示を求められた場合、医療機関は原則として応じるべきとされています。[参照:厚生労働省]
しかし、患者として情報を見る権利と、職員として付与された電子カルテのアクセス権限は別物です。職員用IDは原則として業務上必要な診療情報へアクセスするためのものであり、自己カルテであっても私的な閲覧を病院が禁止している可能性があります。
また電子カルテでは、誰がいつどの患者の情報へアクセスしたかがログとして記録される仕組みが一般的で、厚生労働省の医療情報システム安全管理ガイドラインでもアクセス管理や記録が重視されています。[参照:厚生労働省 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版]
したがって、「自分の情報だから倫理的に問題ないはず」と自己判断するより、勤務先の電子カルテ利用規程や個人情報保護規程を確認し、分からなければ医療情報部や診療情報管理室などへ問い合わせるのが最も安全です。
自分の診療内容を確認したい場合は、診察時に説明を求める、検査結果を交付してもらう、患者向けアプリを利用する、診療情報開示請求を行うなど正規の方法があります。「自分のカルテを見ること」が問題なのではなく、「職員として与えられた権限を患者としての私的目的に使ってよいか」がポイントと考えると分かりやすいでしょう。


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