境界性パーソナリティ障害の攻撃的な言動は愛情の裏返し?パートナーとの関係で知っておきたいこと

カウンセリング、治療

親しいパートナーから突然、強い言葉で責められる、否定される、こき下ろされるといった状況が続くと、相手の本心が分からなくなることがあります。特に境界性パーソナリティ障害(BPD)について調べると、見捨てられることへの強い不安や感情の激しい変化、対人関係の不安定さなどが説明されているため、攻撃的な言動まで「愛情の裏返しなのでは」と考えたくなることもあるでしょう。

しかし、境界性パーソナリティ障害に関連して怒りや対人関係の問題が現れることはあっても、攻撃的な言動そのものを愛情と同一視するのは適切ではありません。また、身近な人が特徴に当てはまるように見えても、本人が境界性パーソナリティ障害なのかをパートナーや家族が判断することはできません。この記事では、境界性パーソナリティ障害と攻撃的な言動の関係、相手の言動を理解するときの注意点、そして自分自身を守りながら関係を考えるためのポイントを整理します。

境界性パーソナリティ障害では対人関係が不安定になることがある

米国国立精神衛生研究所(NIMH)は、境界性パーソナリティ障害について、感情を調整することの難しさ、衝動性、不安定な自己イメージ、対人関係上の問題などを伴う精神疾患と説明しています。また、現実または本人がそう感じている「見捨てられること」を避けようとする行動、拒絶への強い敏感さ、激しい怒りや怒りをコントロールする難しさなどがみられる場合があります。[参照]

対人関係では、相手を非常に大切な存在として感じていた状態から、強い失望や嫌悪へと評価が大きく変化することがあります。そのため、親密な関係ほど感情の揺れが表面化するケースも考えられます。

ただし、境界性パーソナリティ障害のある人すべてが他人を攻撃するわけではありません。症状の種類、程度、頻度、持続期間には個人差があります。「怒りっぽいからBPD」「恋人を責めるからBPD」という判断はできません。

攻撃性は「愛情の裏返し」と考えてよいのか

ここは非常に重要なポイントです。相手への愛着や見捨てられることへの不安が強い場面で怒りが生じることはあり得ますが、だからといって暴言、侮辱、威圧、こき下ろしなどの攻撃的な行為そのものが愛情になるわけではありません。

例えば、「離れていってほしくない」という強い不安を感じた人が、その感情をうまく処理できず「お前なんか最低だ」「全部あなたが悪い」などと相手を責めたとします。この場合、「離れてほしくない」という感情と「相手を傷つける発言」は分けて考える必要があります。背景に愛着や不安が存在する可能性と、実際の言動によって相手が傷つくことは両立します。

つまり、相手の行動の理由を理解することと、その行動を受け入れ続けることは別問題です。病気や心理的な事情が行動を理解する手掛かりになったとしても、それによって暴言や威圧を我慢しなければならないということにはなりません。

パートナーを「境界性パーソナリティ障害だ」と自己判断しないことも重要

インターネットで症状を調べると、身近な人に驚くほど当てはまっているように感じることがあります。しかし、境界性パーソナリティ障害の診断は、精神保健の専門家が症状や経過、本人や家族の精神疾患歴などを詳しく確認したうえで行うものです。NIMHも、資格を持つメンタルヘルス専門職による詳細な評価によって診断されると説明しています。[参照]

激しい怒りや対人関係のトラブルは境界性パーソナリティ障害だけに特有のものではありません。別の精神的な問題、強いストレス、飲酒などの影響、あるいは精神疾患とは別の対人行動として生じている可能性もあります。

そのため、「BPDだからこの行動をしている」と決めつけて相手のすべての言動を説明しようとするより、診断の有無とは切り離して、実際にどのような行為が起きていて、自分がどの程度苦痛を感じているかを見ることが大切です。

「病気なら我慢しなければ」と考える必要はない

パートナーの言動の背景に精神疾患がある可能性を知ると、「本人も苦しいのだから自分が我慢しなければ」と考えてしまうことがあります。しかし、支える側の心身の健康も同じように重要です。

例えば、意見の衝突が起きた際に相手が感情的になったとしても、「怒っていることは分かった。ただ、侮辱されながら話を続けることはできないので、落ち着いてから話したい」というように、感情そのものと許容できない行動を分けて伝える方法があります。

境界線を設けることは相手を見捨てることと同じではありません。「怒ること自体を禁止する」のではなく、「人格を否定する発言をされたら会話を中断する」「威圧されたらその場から離れる」といったように、自分がどう行動するかという境界線を決めておく考え方があります。

境界性パーソナリティ障害には治療法がある

境界性パーソナリティ障害は「性格だからどうにもならない」と考える必要はありません。NIMHによれば、適切な治療によって症状が減少し、生活機能や生活の質が改善する人は多く、心理療法が主要な治療方法とされています。[参照]

代表的なものに弁証法的行動療法(DBT)があります。DBTは境界性パーソナリティ障害のために開発された心理療法で、強い感情をコントロールする方法、自分を傷つける行動を減らす方法、対人関係を改善するためのスキルなどを学びます。

本人が治療を受けることに加えて、家族や身近な人が支援を受けることも選択肢です。NIMHも、境界性パーソナリティ障害のある人を支える家族や介護者自身がカウンセリングを受けることを挙げています。支える側が一人ですべてを背負う必要はありません。

関係を続けるかどうかは「病名」より現在の関係を見る

パートナーとの関係を考える際、「相手が境界性パーソナリティ障害なのか」という一点だけに集中すると、重要な問題が見えにくくなることがあります。診断名よりも、現在の関係の中で何が起きているのかを具体的に確認することが役立ちます。

例えば、「話し合いが成立するか」「傷つけたときに謝罪や修復ができるか」「同じ問題について改善しようとする姿勢があるか」「こちらが嫌だと伝えた行動を繰り返していないか」「一緒にいることで日常生活や心身に大きな支障が出ていないか」といった点です。

特に、暴力、物を壊す行為、身体的な威嚇、行動や交友関係の過度な監視・制限などがある場合には、「愛情の裏返し」として処理せず、安全を優先する必要があります。危険を感じる状況では一人で解決しようとせず、信頼できる人や地域の相談機関、医療・福祉の専門家などにつながることが重要です。

相手を理解することと自分を守ることは両立できる

相手が強い不安や怒りを抱えていることを理解しようとする姿勢と、自分自身を守ることは矛盾しません。「この人にも苦しさがあるのだろう」と考えながら、「それでも自分を傷つける言葉は受け入れない」という立場を取ることができます。

また、パートナーから繰り返し攻撃的な言葉を受け、精神的に消耗している場合には、本人とは別の心理職や医療機関などに自分自身が相談する方法もあります。第三者に状況を説明することで、関係の中にいると見えにくくなっていた問題を整理できることがあります。

相手を支えることだけでなく、支える側にも支援が必要になることがあります。相手の診断が確定していなくても、自分が対人関係によって強いストレスを感じていること自体が相談する十分な理由になります。

まとめ:攻撃的な言動そのものを愛情と考える必要はない

境界性パーソナリティ障害では、感情を調整する難しさ、見捨てられることへの強い不安、不安定な対人関係、激しい怒りなどがみられることがあります。そのため、親しい相手との関係の中で強い感情が表面化する可能性はあります。

一方で、攻撃的な言動そのものを「愛情の裏返し」として受け止める必要はありません。愛着や不安が背景にある可能性と、暴言や侮辱によって相手が傷つくことは別々に考える必要があります。

そして、身近な人について症状だけから境界性パーソナリティ障害と判断することも避けるべきです。診断は専門家に任せ、パートナーとしては病名だけを見るのではなく、現在どのような関係になっているのか、自分の安全や心身の健康が守られているかを確認することが大切です。相手への理解と、自分自身を大切にすることは同時に成り立ちます。

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