テレビやインターネットでは、パニック障害やうつ病などを経験した著名人が自らの病気について語る機会があります。一方で、統合失調症について公表する芸能人はあまり見かけないと感じる人もいるでしょう。
しかし、ここから「芸能人には統合失調症の人がほとんどいない」と結論づけることはできません。病歴は非常にプライベートな情報であり、本人が公表していなければ外部から知ることはできないからです。
公表する人が少なく見える背景として重要なのが、統合失調症に対して今なお存在するスティグマ(偏見・差別)や、病名を公表した場合の仕事・人間関係への影響です。パニック障害との単純な「重さの違い」だけで説明できる問題ではありません。
そもそも統合失調症とはどのような病気?
統合失調症は、幻覚や妄想、思考や行動のまとまりにくさ、意欲低下など、さまざまな症状が現れる可能性がある精神疾患です。ただし症状や経過には大きな個人差があり、診断名だけからその人の日常生活や仕事の能力を決めつけることはできません。
厚生労働省の情報サイト「こころの情報サイト」でも統合失調症について解説されており、薬物療法や心理社会的な治療・支援などを組み合わせながら治療していくことが示されています。こころの情報サイト 統合失調症[参照]
したがって、「統合失調症になったら仕事ができない」「社会生活ができなくなる」と一律に考えるのは正確ではありません。治療を受けながら生活・就労している人もいます。
統合失調症を公表する芸能人が少なく見える最大の理由は「公表しにくさ」
精神疾患を公表するかどうかは本人が決めることであり、芸能人にも公表する義務はありません。特に芸能活動では本人のイメージが仕事に直結することがあるため、病名を公表した後の反応を慎重に考えるのは自然なことです。
統合失調症には現在でも「危険なのではないか」「普通に会話できないのではないか」「仕事を任せられないのではないか」といった誤解や固定観念が向けられることがあります。こうしたスティグマは、病気そのものとは別に本人の社会生活へ負担を与える可能性があります。
例えば俳優が病名を公表した場合、実際には安定して仕事ができる状態であっても、制作側や視聴者から必要以上に心配されたり、本人の発言や演技まで病気と結び付けて解釈されたりする可能性があります。公表しないことには、こうした不利益から自分を守る意味もあります。
パニック障害の公表が比較的目立つのはなぜ?
パニック障害では、突然の動悸、息苦しさ、めまいなどを伴うパニック発作が起こり、再び発作が起こることへの不安などが生活へ影響することがあります。芸能人の場合、ライブやテレビ出演、移動などが難しくなった理由を説明する過程で病名を公表するケースがあります。
また、著名人による公表やメディアでの啓発が積み重なると、一般の人が病名を耳にする機会が増えます。その結果、さらに公表しやすくなるという循環が生まれる可能性があります。
ただし、「パニック障害なら軽いから言える」「統合失調症は重いから言えない」という比較は適切ではありません。パニック障害でも生活に大きな支障が生じることがありますし、統合失調症でも治療によって安定した生活を送れる人がいます。
「公表している人数」と実際の患者数はまったく別
著名人の病気を考える際に注意したいのが、公表例の数をそのまま病気の頻度だと思わないことです。芸能人の健康情報について把握できるのは、基本的に本人や所属先などが公表した範囲だけです。
例えば、ある病気について10人の芸能人が公表していて、別の病気では1人しか見つからなかったとしても、「前者は芸能人に10倍多い」とはいえません。公表するメリットとデメリット、病気への社会的理解、本人の考えなどが異なるからです。
また、過去の休養について病名を公表せず「体調不良」「療養」とだけ発表することもあります。本人が明らかにしていない病名を、休養期間や言動などから推測して決めつけることも避けるべきです。
統合失調症には今もスティグマという問題がある
世界保健機関(WHO)は統合失調症について、患者がしばしば人権侵害や社会的排除、差別を経験することを指摘しています。WHO Schizophrenia[参照]
精神疾患に対する偏見は、単に嫌な思いをするという問題だけではありません。「病名を知られたら仕事に影響するのではないか」「人間関係が変わるのではないか」という不安から、病気について話せなくなることにもつながります。
芸能人の場合は一度公表するとニュースやSNSなどを通して非常に多くの人へ知られる可能性があります。後から「やはり非公開にしたい」と思っても情報を完全に回収することは難しいため、一般の人以上に慎重になる理由があります。
統合失調症を公表して活動する著名人が「ゼロ」というわけではない
統合失調症の経験を公表した著名人や、当事者として執筆・講演・啓発活動などを行っている人は国内外に存在します。そのため「統合失調症を公表した著名人は一人もいない」というわけではありません。
ただし、誰かを統合失調症の著名人として紹介する場合には、本人が公に診断や経験を明らかにしていることを確認する必要があります。第三者の記事、SNS上の噂、テレビでの言動などを根拠に病名を推測するのは適切ではありません。
また、本人が公表したとしても、その人を「統合失調症の人」という一つの属性だけで捉える必要はありません。病気はその人が持つ多くの要素の一つです。
病名を公表することにも、公表しないことにも理由がある
著名人が精神疾患を公表すると、同じ病気で悩む人が「自分だけではなかった」と感じたり、病気への理解が広がったりすることがあります。その意味で当事者による発信には大きな社会的価値があります。
一方で、公表によって偏見、誹謗中傷、仕事への影響、プライバシーの喪失などが起こる可能性もあります。そのため、公表しない選択も同じように尊重される必要があります。
精神疾患について語れる社会をつくることと、当事者に公表を求めることは別です。安心して話したい人は話せて、話したくない人は秘密を守れる環境が望ましいといえます。
まとめ:統合失調症の芸能人が少ないというより「公表例が見えにくい」と考える
パニック障害を公表する芸能人と比べて統合失調症を公表する芸能人が少なく見えるとしても、それだけで芸能界に統合失調症の人が少ないとは判断できません。私たちが知ることができるのは、本人が公表した情報の範囲に限られるためです。
統合失調症に対する社会的な偏見や誤解、仕事への影響、プライバシーの問題などが、公表を難しくする要因になり得ます。一方、パニック障害についても症状の程度はさまざまであり、「公表しやすい=軽い病気」という意味ではありません。
著名人が病気を公表したかどうかではなく、どの精神疾患についても正確な知識を持ち、診断名だけで能力や人格を決めつけないことが重要です。そして本人が公表していない病名については推測せず、話す・話さないという本人の選択を尊重することが、精神疾患へのスティグマを減らすことにもつながります。


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