デンタルフロスを使うとき、「ノコギリのように左右へ動かす」「上下に動かす」「勢いよく抜いてはいけない」など、さまざまな説明を見かけます。一見すると矛盾しているようですが、実はフロスを歯と歯の間へ通す動きと、歯垢を落とす動きでは目的が違います。
基本的には、歯と歯が接している狭い部分を通過するときは、左右へ小さく動かしながらゆっくり入れます。その後、歯ぐき付近まで入ったフロスを片方の歯の側面へ沿わせ、上下方向へ動かして歯垢を落とします。隣の歯についても同じように清掃してから、最後は無理な力をかけずに抜きます。
「左右に動かす=歯間へ安全に通すため」「上下に動かす=歯の側面を清掃するため」と覚えると分かりやすいでしょう。ここでは、ロールタイプとホルダータイプの違いも含め、デンタルフロスの一連の使い方を詳しく解説します。
デンタルフロスは何のために使う?
歯ブラシだけでは、歯と歯が接している部分やその周囲へ毛先を十分に届かせることが難しいため、デンタルフロスなどの歯間清掃用具を併用します。日本歯科医師会も、歯と歯の間には歯垢が残りやすく、歯ブラシとデンタルフロスを併用することを紹介しています。日本歯科医師会[参照]
フロスは単に食べ物を取り除く道具ではありません。歯の側面に付着した歯垢を物理的に取り除くことが大切です。そのため、「歯間へ一度通して、そのまま抜くだけ」では十分に歯面を清掃できない場合があります。
米国歯科医師会(ADA)も、フロスなどによる歯間清掃は歯と歯の間にある歯垢や食物残渣の除去に役立つとしています。American Dental Association[参照]
正しいフロスの流れは「入れる→片面→反対面→抜く」
デンタルフロスの基本動作をシンプルに整理すると、次のようになります。
- フロスを歯と歯の接触部分まで持っていく
- 左右へ小さく動かしながらゆっくり通す
- 歯ぐきを傷つけないよう歯間へ入れる
- 片方の歯へフロスを沿わせる
- 歯面に沿って上下させて歯垢を落とす
- 反対側の歯にも沿わせて同じように清掃する
- 左右へ小さく動かしながら無理なく抜く
ポイントは、歯と歯の間を一本の「隙間」として掃除するのではなく、隣り合う2本の歯それぞれの側面を清掃することです。
例えば右側の歯へフロスを沿わせて清掃したら、次は左側の歯へ沿わせます。片方だけ清掃して終わらないようにすると、フロス本来の役割を生かしやすくなります。
「ノコギリのように動かす」のは歯間へ通すとき
フロスを左右へ動かすよう説明されるのは、歯と歯が接している「コンタクトポイント」を安全に通過させるためです。狭い部分へ上から力任せに押し込むと、抵抗が抜けた瞬間にフロスが歯ぐきへ勢いよく当たることがあります。
そこで、フロスを左右へ細かく動かしながら少しずつ進めます。日本歯科医師会の情報でも、前後に小さく動かしながらゆっくり挿入し、力任せに挿入して歯ぐきを傷つけないよう注意する方法が紹介されています。日本歯科医師会[参照]
つまり「ノコギリのように動かす」という表現は、歯ぐきを左右にゴシゴシ切るように擦るという意味ではありません。狭い接触部分を通過するときに、小刻みに動かしてコントロールするイメージです。
歯間へ入ったら歯の側面に沿わせて上下させる
フロスが接触部分を通過したら、次は清掃する段階です。フロスを片方の歯へ沿わせ、歯の丸みに合わせるように密着させます。ロールタイプでは、歯を包むようなC字形をイメージすると分かりやすくなります。
ADAでも、フロスを歯面にC字状に沿わせて歯垢を取り除く方法が示されています。American Dental Association[参照]
歯面へ沿わせたら、歯ぐきを強く擦るのではなく、歯の側面をなぞるように上下させます。日本歯科医師会が紹介する方法では、隣り合った歯の両方へ糸を添わせ、2~3回上下に動かして歯垢を除去するとされています。日本歯科医師会[参照]
歯ぐきの中にはどこまで入れていい?
フロスは歯ぐきへ勢いよく突き刺すものではありません。一方、歯ぐきから大きく離れた位置だけを上下させても、歯と歯ぐきの境目付近を十分に清掃できません。
フロスをゆっくり歯ぐき付近まで入れ、歯面へ沿わせて清掃します。痛みを我慢して深く押し込む必要はありません。「深ければ深いほどきれいになる」という考え方は避けましょう。
適切な位置や動かし方は歯並びや歯ぐきの状態によっても変わります。歯周病治療中、歯ぐきが下がっている、矯正装置がある、被せ物やブリッジがあるといった場合は、歯科医師・歯科衛生士から自分の口に合った清掃方法を教えてもらうのが確実です。
フロスを抜くときも勢いよく引っ張らない
清掃後は、フロスを力任せに引き抜くのではなく、入れたときと同様に左右へ小さく動かしながら接触部分を通過させます。日本歯科医師会が紹介するY字型フロスの使い方でも、挿入時だけでなく抜くときも左右へ動かしながら行うことが案内されています。日本歯科医師会[参照]
特に歯間が狭い場所では、上方向へ一気に引っ張るとフロスが急に抜けることがあります。ホルダータイプなら、左右へ小さく動かしながら少しずつ戻すほうがコントロールしやすくなります。
ロールタイプの場合は、抜けにくければ無理に上へ引き戻さず、片方の指に巻いているフロスを外し、歯間から横方向へ引き抜く方法もあります。詰め物や被せ物がありフロスが頻繁に引っ掛かる場合は、無理に引っ張らず歯科医院で確認してもらいましょう。
ロールタイプとY字・F字タイプでは操作方法が少し違う
デンタルフロスには、大きく分けて必要な長さを切って指に巻く「ロールタイプ」と、持ち手に糸が固定された「ホルダータイプ」があります。ホルダータイプには前歯で操作しやすいF字型や、奥歯へ入れやすいY字型があります。日本歯科医師会でも、初心者にはホルダータイプが使いやすい選択肢として紹介されています。日本歯科医師会[参照]
ロールタイプは両手で糸の張り具合を調整できるため、歯の側面へC字状に沿わせやすいのが特徴です。一方、ホルダータイプは操作が簡単で、毎日の習慣にしやすいメリットがあります。
「ロールタイプでなければ正しく磨けない」というわけではありません。奥歯でロールタイプを扱いにくいならY字型を利用するなど、継続して正しく使えるものを選ぶことが大切です。
フロスで出血したら使うのをやめるべき?
フロスを使ったときの出血には、歯ぐきの炎症が関係している場合もあれば、フロスを勢いよく当てて傷をつけている場合もあります。そのため「出血した=必ず使い方が間違っている」「出血しても必ず続ければよい」と一律には判断できません。
フロスを力任せに歯ぐきへ当てているなら、まず動かし方を見直します。一方、優しく清掃しているのに同じ場所から繰り返し出血する場合は、歯肉炎や歯周病などがないか歯科医院で確認してもらうことが大切です。
日本歯科医師会の情報でも、歯と歯の間を治療した直後や歯ぐきに炎症がある場合など、フロス使用による出血や痛みが続くときは使用を控えて歯科医師へ相談するよう案内されています。日本歯科医師会[参照]
デンタルフロスは歯磨きの前と後どちらがいい?
フロスを歯磨きの前に使うか後に使うかについては、毎日きちんと清掃できることが重要です。ADAは、十分に清掃できていれば歯磨きとフロスのどちらを先にしてもよいとしています。American Dental Association[参照]
一方、日本歯科医師会のWebコンテンツでは、歯磨き後のフロス使用を勧めている例もあります。特に夜は丁寧に歯間まで清掃する習慣を作るとよいでしょう。日本歯科医師会[参照]
順番にこだわりすぎて続かなくなるより、1日の中で習慣化することが大切です。ADAは歯磨きを1日2回、フロスなどによる歯間清掃を1日1回行うことを案内しています。
フロスの正しい使い方を一連の動作で確認
最後に、一つの歯間を清掃するときの流れを整理すると次のようになります。
- フロスを歯と歯の間へ当てる
- 左右へ小刻みに動かしながら、接触部分をゆっくり通過させる
- 歯ぐきへ勢いよく当てない
- 片方の歯の側面へフロスを沿わせる
- 歯面をなぞるように2~3回程度上下させる
- 反対側の歯へ沿わせる
- 同じように上下させて清掃する
- 左右へ小さく動かしながらゆっくり抜く
- 次の歯間へ移る
「左右運動だけ」でも「上下運動だけ」でもなく、場所によって動きを使い分けるのがポイントです。接触部分では左右へ小さく動かし、歯間へ入った後は歯の側面へ沿わせて上下させます。
どうしても特定の場所へ入らない、毎回フロスが切れる・ほつれる、同じ場所から出血する、痛みが続くといった場合は、無理に力を入れず歯科医院で確認してもらいましょう。詰め物や歯石、歯ぐきの炎症などが関係していることもあります。
まとめ:フロスはゆっくり通して歯の両側面を清掃する
デンタルフロスの基本は、歯と歯が接している部分を左右へ小さく動かしながらゆっくり通し、歯間へ入ったら片方ずつ歯面へ沿わせて上下に動かすことです。「ノコギリのように動かす」という説明は、歯ぐきを強く擦るという意味ではなく、狭い接触部分を安全に通すための小さな往復運動と考えると理解しやすくなります。
抜くときも勢い任せに引っ張らず、左右へ小さく動かしながらゆっくり戻します。大切なのは力の強さではなく、隣り合った2本それぞれの歯面へフロスを密着させて歯垢を取り除くことです。
歯並びや歯ぐきの状態によって最適なフロスや動かし方は多少変わります。使い方に不安がある場合や出血・痛みが続く場合は、定期健診の際に歯科医師や歯科衛生士へ実際の動かし方を見てもらうと、自分の歯に合った清掃方法を身につけやすくなります。

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