双極性障害(躁うつ病)では、気分が落ち込む「うつ状態」と、気分が高揚したり活動性が高まったりする「躁状態・軽躁状態」がみられます。ただし実際の症状は単純に「明るければ躁、暗ければうつ」と二分できるものではありません。
例えば、テンションが高い、よく笑う、イライラする、よくしゃべるといった様子があっても、それだけで現在の病相を判断することはできません。また、ギャグで大笑いすることや独り言を言うことだけを根拠に、うつ状態・躁状態を判定することもできません。
さらに注意したいのが「呂律が回らない」「以前より明らかに話しづらい」という症状です。精神状態だけでなく、服用している薬の影響や身体的・神経学的な原因でも起こるため、新しく出現した話しづらさを「うつ病だから」と自己判断しないことが重要です。ここでは双極性障害の気分変化と笑い・イライラの関係、呂律が回りにくい場合に確認したいことを解説します。
双極性障害は「明るい=躁、暗い=うつ」とは限らない
双極性障害では躁・軽躁エピソードとうつ病エピソードが問題になりますが、気分だけを見て現在の状態を判断することはできません。躁状態では気分が高揚する人がいる一方、強いイライラや怒りっぽさが目立つこともあります。
診察では、単に「明るいか暗いか」ではなく、睡眠時間、活動量、話す量や速さ、考えのまとまり方、自信の高まり、衝動的な買い物や行動、仕事・学校・家庭生活への影響などを総合して判断します。
例えば普段8時間眠っていた人が数時間しか寝なくても平気になり、次々と予定を入れ、話し続け、浪費も増えているなら、単に「最近明るい」という情報より重要です。反対に笑うことができても、ほとんど一日中つらさが続き、意欲や興味が著しく低下している場合には別の評価が必要です。
テンションが高い・イライラするのに落ち込みもある場合
双極性障害では、躁的な特徴とうつ的な特徴が同じ時期にみられることがあります。そのため「笑っているからうつ状態ではない」「落ち込んでいるから躁の要素はない」とは言い切れません。
例えば気分はつらいのに頭の中だけ次々と考えが浮かぶ、強い焦燥感がある、イライラして落ち着かない、睡眠が減っているといった組み合わせがみられることがあります。こうした状態は本人にとって非常に消耗が大きくなる場合があります。
重要なのは病名を自分で当てることより、「いつから・どの症状が・どの程度変化したのか」を主治医へ伝えることです。双極性障害では治療方針にも関係するため、気分だけでなく睡眠や活動性の変化も記録しておくと診察に役立ちます。
ギャグやセリフを思い出して大笑いするだけでは病相は判断できない
テレビやアニメ、お笑いのセリフを思い出して笑ったり、一人のときに面白いことを思い出して笑ったりすること自体は、精神疾患の有無を決める症状ではありません。健康な人にも普通に起こり得ます。
一方で、以前とは明らかに違う笑い方が急に増えた、場面に合わない笑いが続く、興奮して止まらない、独語が急増した、ほとんど眠っていない、考えや会話がまとまらない、幻覚や妄想を伴うなど、ほかの大きな変化がある場合は主治医へ伝える価値があります。
「大笑いした」という一つの行動だけを切り取るのではなく、その前後の睡眠・気分・行動・生活への影響まで含めて見ることが大切です。
他人の症状と似ていても同じ病状とは限らない
著名人が病気について公表していると、その人の話し方や行動と自分を比較したくなることがあります。しかし、ラジオやテレビ、動画などで見聞きできる様子だけから、その人がその時点でどの病相にあるのか、症状なのか薬の影響なのか、あるいは普段の話し方なのかを医学的に判断することはできません。
同様に、「自分と話し方が似ている」「笑い方が同じ」という一致だけで、自分も同じ状態だと判断することはできません。精神疾患では同じ診断名でも症状の現れ方、治療薬、経過が大きく異なります。
比較対象として最も役立つのは他人ではなく自分自身の普段の状態です。「先月までは普通に話せたのに最近口がもつれる」「以前は7時間寝ていたのに3時間になった」といった自分の変化のほうが診療上重要な情報になります。
呂律が回らない・話しづらい症状は精神状態だけで判断しない
「呂律が回らない」という症状については、気分の変化とは分けて考える必要があります。精神科で使用される薬の中にも、眠気、筋肉の動きへの影響、構音障害などが副作用として記載されているものがあります。ただし、どの薬でも同じように起こるわけではなく、服用薬・用量・併用薬によって異なります。
実際にPMDAが公開している一部の抗精神病薬・双極性障害治療薬の添付文書では、構音障害、舌の運動障害、嚥下障害、傾眠などが副作用として記載されています。処方薬の情報はPMDAで確認できます。PMDAおくすりサーチ[参照]
ただし、薬が原因だと思って自己判断で急に減量・中止するのは避けてください。服用開始や増量後から話しづらくなった、眠気やふらつきも強い、といった場合は、薬の名前・用量・症状が始まった時期を主治医や薬剤師へ伝えて確認します。
突然ろれつが回らなくなった場合は脳卒中にも注意
特に重要なのが、これまで普通に話せていたのに突然ろれつが回らなくなったケースです。これは精神疾患や薬の副作用だけではなく、脳卒中の症状として現れることがあります。
厚生労働省は脳卒中のサインとして、顔の片側がゆがむ、片腕に力が入らない、ろれつが回らない・言葉が出ないといった症状を挙げています。このような症状が突然起きた場合は、一つだけでも脳卒中を疑い、すぐ救急車を呼ぶよう案内しています。厚生労働省 ACT-FAST[参照]
急にろれつが回らなくなった、顔の片側が下がる、片腕・片脚の力が入りにくい、言葉が出ない、急な激しい頭痛、意識がおかしいといった症状がある場合は、精神科の次回診察を待たず119番を検討すべき状況です。一度症状が改善した場合でも放置しないことが重要です。
診察では「うつですか?」だけでなく具体的な変化を伝える
双極性障害で治療中に状態が変わってきた場合、次回の診察では「うつになった気がする」とだけ伝えるより、具体的な症状を時系列で伝えると医師が評価しやすくなります。
例えば、次のような項目をスマートフォンのメモなどへ記録しておくと便利です。
- 1日の睡眠時間と寝なくても平気かどうか
- 気分の高揚・落ち込み・イライラの程度
- 話す量や速さの変化
- 呂律の回りにくさが始まった日
- 症状が一日中あるのか、服薬後だけなのか
- 薬を開始・増量・減量した時期
- 買い物や外出など活動量の変化
- 仕事・学校・家事への影響
- 死にたい気持ちや衝動的な行動の有無
特に呂律の問題は、「口が動かしにくい」「舌がもつれる」「言葉そのものが出てこない」「眠くて話せない」など、似ているようで意味が異なります。どの感覚に近いのかを伝えると原因を考える手掛かりになります。
早めに主治医へ相談したほうがよい変化
双極性障害の治療中で、普段と違うテンションの高さや強いイライラが続く、睡眠時間が大きく減った、衝動的な行動が増えた、逆に強い落ち込みや意欲低下が出てきた場合は、予定されている診察日を待つべきかも含めて医療機関へ相談するとよいでしょう。
さらに、死にたい気持ちが強い、自分を傷つけそう、興奮や混乱が激しく自分や周囲の安全を保てない場合は、通常の診察待ちではなく緊急の支援が必要になることがあります。差し迫った危険がある場合は119番など緊急の手段を利用します。
双極性障害では本人が「調子が良くなった」と感じる時期にも活動性が上がりすぎていることがあります。家族など身近な人から「最近ほとんど寝ていない」「いつもより話し続けている」などの指摘があれば、その情報も診察時に伝えると役立ちます。
まとめ:笑いやテンションだけでうつ状態とは判断できない
双極性障害では、明るい・よく笑う・イライラするといった一つの特徴だけから「躁」「うつ」を判断することはできません。躁的な特徴とうつ的な特徴が同じ時期にみられることもあり、睡眠、活動量、思考、会話、衝動性、生活への影響などを総合的に評価する必要があります。
また、他人と話し方や笑い方が似ていることは診断の根拠にはなりません。比較するなら他人よりも「普段の自分から何が変わったか」を確認し、変化を主治医へ具体的に伝えることが重要です。
そして「最近ろれつが回らない」という変化は、うつ状態だけで説明できる症状ではありません。薬の影響を含め複数の原因が考えられるため主治医へ相談し、突然発症したろれつの障害や顔・手足の麻痺などがある場合は脳卒中の可能性も考えて速やかに救急要請してください。精神症状と決めつけず、身体症状としても評価することが安全につながります。


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