境界性パーソナリティ障害(BPD)について調べていると、インターネット上で「高機能境界性パーソナリティ障害」「高機能型BPD」といった表現を見かけることがあります。仕事や学校生活を続けられ、人間関係も一見安定している一方で、本人は強い感情の揺れや自傷衝動などに苦しんでいるケースを説明する際に使われることがある言葉です。
ただし、「高機能境界性パーソナリティ障害」は独立した正式な診断名として扱われているわけではありません。また、仕事ができる、自傷行為があるといった一部分だけからBPDかどうか、あるいは「高機能」かどうかを判断することもできません。本記事では、この言葉が何を意味しているのかを整理します。
「高機能境界性パーソナリティ障害」は正式な診断名ではない
まず押さえておきたいのは、「高機能境界性パーソナリティ障害(High-functioning BPD)」という名称が、通常の境界性パーソナリティ障害とは別の病気として正式に分類されているわけではないという点です。
一般には、境界性パーソナリティ障害の特徴や強い心理的苦痛を抱えていても、仕事、学業、家事、対人関係などの社会生活を比較的維持している人を説明するために「高機能」という表現が非公式に使われることがあります。
つまり「普通に働けているからBPDではない」とも、「働けているBPDだから高機能型だ」とも単純には判断できません。診断では、本人が外からどう見えるかだけではなく、長期間にわたる感情、行動、自己認識、対人関係などのパターンを総合的に評価する必要があります。
仕事や人間関係が維持できる人にも強い症状はあり得る
精神的な不調の程度と、外から確認できる社会生活の状態は必ずしも一致しません。毎日出勤して仕事をこなし、友人とも付き合っている人が、帰宅後には激しい空虚感や自己否定、感情の揺れに苦しんでいるということはあり得ます。
例えば、職場では感情を抑えて問題なく勤務できていても、親密な関係になると見捨てられることへの強い不安を感じたり、一人になったときに感情を処理できなくなったりする場合があります。周囲から「しっかりしている人」に見えていることと、本人が苦痛を抱えていないことは同じではありません。
反対に、仕事や人間関係で困難があるからといって、それだけで境界性パーソナリティ障害と判断できるものでもありません。同じような困りごとは、うつ病、不安症、双極症、発達上の特性、トラウマに関連する問題などでも生じる可能性があります。
リストカットやODがあればBPDというわけではない
境界性パーソナリティ障害では、自傷行為や自殺に関連する行動がみられることがあります。厚生労働省の資料でも、反復する自傷行為などは境界性パーソナリティ障害に関連する特徴として扱われています。[参照]
しかし、リストカットや過量服薬(OD)をしているという事実だけで、境界性パーソナリティ障害と診断できるわけではありません。自傷行為はさまざまな精神的問題や強いストレスの中で生じる可能性があるためです。
同様に、「自傷しているのに仕事ができる」という組み合わせだけから「高機能型BPD」と判断することもできません。重要なのは行動を一つずつラベル付けすることではなく、なぜその行動が起きているのか、どの程度の苦痛があるのか、ほかにどのような症状があるのかを専門家と確認することです。
「高機能」という言葉で苦痛の大きさは判断できない
「高機能」という言葉には少し注意が必要です。仕事が続けられている人を高機能、続けられない人を低機能と単純に分けられるものではありません。また、その呼び方が症状の軽さを意味するわけでもありません。
例えば、週5日問題なく勤務しているものの、その状態を維持するために極端な無理をしている人もいます。外では安定して見えても、帰宅すると何もできなくなるほど疲弊していたり、強い自己否定や自傷衝動に悩まされたりしているなら、本人にとっての苦痛は決して小さいとはいえません。
そのため、「生活できているから大丈夫」と考えるよりも、本人がどれほど困っているか、危険な行動が起きているか、生活を維持するためにどれほど負担を払っているかを見るほうが重要です。
BPDには治療法があり改善も期待できる
境界性パーソナリティ障害は「性格だから治らない」と考えられることがありますが、適切な治療や支援によって症状が改善する人はいます。英国NHSも、時間の経過と治療によって多くの人が症状を克服し回復していくことを説明しています。[参照]
治療では心理療法が重要で、代表的なものとして弁証法的行動療法(DBT)などがあります。DBTでは、強い感情への対処、自傷につながる行動パターンへの対応、対人関係などについて取り組みます。
診断名を自分で確定することより、「感情を自分でコントロールするのが非常につらい」「人間関係で同じ問題を繰り返す」「自傷やODを繰り返してしまう」といった具体的な困りごとを精神科や心療内科などで相談することが大切です。
自傷やODがある場合は「生活できているか」より安全を優先する
特に注意したいのが、自傷行為やODが実際に起きている場合です。仕事や学校に行けているとしても、自傷や過量服薬には身体への重大な危険があります。「普段は普通に生活できているから、それほど深刻ではない」と判断するべきではありません。
すでにODをした場合は、薬の種類や量によっては本人に目立った症状がなくても危険なことがあります。意識がおかしい、呼吸がおかしい、けいれんしているなど緊急性が疑われる場合は、ためらわず119番などの救急対応につなげる必要があります。
また、自傷したい気持ちや死にたい気持ちが強くなっている場合も、一人で抱え込まず、医療機関や身近な支援者などにつながることが重要です。これはBPDと診断されているかどうかとは関係ありません。
まとめ:高機能型というラベルより症状と苦痛を個別に見ることが大切
「高機能境界性パーソナリティ障害」という言葉は、境界性パーソナリティ障害とは別に存在する正式な診断名というより、外見上は仕事や学業、人間関係などを維持できている人の状態を説明するために使われることがある非公式な表現と理解するとよいでしょう。
仕事ができることと精神的な苦痛が軽いことは同義ではありません。一方、自傷やODがあることだけでBPDや「高機能型」と決めることもできません。診断には、症状の種類、持続期間、対人関係や自己認識のパターン、ほかの精神疾患の可能性などを含めた専門的な評価が必要です。
特に自傷やODがある場合には、「高機能かどうか」を判断することよりも、その行動の背景にある苦痛を医療機関などに相談し、安全を確保することが優先されます。外から普通に生活できているように見える場合でも、必要な治療や支援を受けてよいという点は変わりません。


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