体調不良や食欲低下が続いたあとに、頭頂部だけでなく後頭部や側頭部を含めて髪の毛が抜けやすくなることがあります。脱毛というと円形脱毛症や男性型脱毛症(AGA)がよく知られていますが、実際には病気、栄養状態の変化、体重減少、強い身体的ストレスなどをきっかけに起こる脱毛もあります。
特に、まとまった期間に食事量が大きく減ったあとで頭部全体の抜け毛が増えた場合は、円形脱毛症だけで判断せず、休止期脱毛症を含むびまん性の脱毛や、栄養状態、甲状腺疾患、貧血、薬剤、男性型脱毛症などを幅広く確認することが重要です。
この記事では、食事を十分に取れなかった時期のあとに抜け毛が増えた場合に考えられる原因、受診する診療科、医療機関を探すときのポイント、診察時に伝えておきたい情報について整理します。
食事量が減ったあとに抜け毛が増えることはある
髪の毛には成長期、退行期、休止期という毛周期があります。そのため、身体に何らかの負担がかかったからといって、必ずしもその翌日から大量に髪が抜け始めるわけではありません。
病気、高熱、手術、急激な減量、栄養状態の変化などをきっかけとして、多くの毛が休止期へ移行し、その後に抜け毛が目立つようになる状態は休止期脱毛症(telogen effluvium)として知られています。日本皮膚科学会の皮膚科研修カリキュラムにも休止期脱毛症が皮膚科領域の疾患として記載されています。
例えば、胃腸の不調によって数週間十分に食事を取れなかった場合、その期間と抜け毛が増え始めた時期には時間差が生じることがあります。そのため、診察では「現在何を食べているか」だけでなく、数週間から数カ月前の病気や食事量、体重変化なども重要な情報になります。
最初の受診先は皮膚科が基本
髪の毛や頭皮の脱毛症状について最初に相談する診療科は、基本的には皮膚科です。皮膚科は円形脱毛症だけを診療する診療科ではなく、男性型脱毛症、休止期脱毛症、瘢痕性脱毛症など、さまざまな毛髪・頭皮疾患が診療対象になります。
医療機関のホームページに「円形脱毛症」としか書かれていなくても、それだけで他の脱毛症を診療していないとは限りません。掲載されている病名は代表例である場合もあるため、予約前に電話などで「頭部全体の抜け毛が増えている」「食事量が減った時期があり、その後に脱毛が増えた」と伝えて診療可能か確認すると確実です。
より専門的な診察を希望する場合は、「毛髪外来」「脱毛症外来」「毛髪・頭皮外来」などを設けている皮膚科や大学病院・総合病院の皮膚科を探す方法もあります。ただし、最初から専門外来でなければ診断できないわけではありません。
円形脱毛症と休止期脱毛症では抜け方が異なることがある
円形脱毛症では、典型的には境界が比較的明瞭な脱毛斑が現れます。一方、休止期脱毛症では特定の一部分だけではなく、頭部の広い範囲から抜け毛が増える「びまん性」の脱毛として現れることがあります。ただし、見た目だけで自己判断するのは避けたほうがよいでしょう。
また、60歳前後の男性であれば男性型脱毛症が同時に存在している可能性もあります。男性型脱毛症は一般的に前頭部や頭頂部を中心として徐々に進行しますが、もともとの男性型脱毛症に一時的な休止期脱毛などが重なれば、以前より急に抜け毛が増えたように感じることも考えられます。
日本皮膚科学会の男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインでも、脱毛を評価するときには男性型脱毛症だけでなく、疾患に伴う脱毛、貧血、急激なダイエットなどに伴う脱毛、薬剤による脱毛などを除外することが重要とされています。つまり、「抜け毛=AGA」「抜け毛=円形脱毛症」と最初から決めつけないことが大切です。
皮膚科で内科的な原因を調べることもある
頭部全体の脱毛では、頭皮そのものだけでなく全身状態が関係する場合があります。そのため問診や頭皮・毛髪の診察に加えて、必要に応じて血液検査などが検討されることがあります。
確認する項目は症状や既往歴によって異なりますが、貧血や鉄の状態、甲状腺機能、栄養状態などが検討される場合があります。どの検査が必要かは年齢、持病、服用薬、体重変化、食生活などによって異なるため、自己判断で特定の検査だけを受けるより医師に経過を説明して判断してもらうのが適切です。
胃腸症状が続いている、再び食事が取れなくなった、明らかな体重減少が続いているといった場合には、皮膚科だけでなく消化器内科やかかりつけの内科との連携が必要になることもあります。脱毛の背景となる身体の問題があれば、その原因への対応も重要だからです。
受診するときに伝えると診断の手掛かりになること
脱毛症の診察では「髪が抜けます」という情報だけでなく、抜け始める前から現在までの経過を時系列にして伝えると役立ちます。
- 抜け毛が増え始めた時期
- 食欲が低下した時期とその期間
- その期間にどの程度食事を取れていたか
- 体重が何kg程度変化したか
- 発熱、感染症、手術などがなかったか
- 現在服用している薬や最近開始・中止した薬
- 抜け毛が頭部全体なのか特定部分なのか
- 頭皮のかゆみ、赤み、痛み、フケなどの有無
- 家族に男性型脱毛症があるか
例えば「7月に約3週間ほとんど通常量の食事が取れなかった」「8月には食事量が戻った」「その後から後頭部や側頭部を含めて抜け毛が増えた」のように時系列で説明すると、医師が原因を検討しやすくなります。
可能であれば、抜け毛が増える前の髪型が分かる写真と現在の写真を持参するのも一つの方法です。毎日抜けた髪をすべて数える必要はありませんが、いつ頃からどの程度変化したかを説明できるようにしておくとよいでしょう。
「脱毛症外来」「毛髪外来」を探すのも選択肢
近隣の一般皮膚科で対応が難しい場合には、大学病院や総合病院、皮膚科専門医が在籍する医療機関の毛髪外来・脱毛症外来を探す方法があります。検索するときは「地域名 毛髪外来」「地域名 脱毛症外来」「地域名 皮膚科 休止期脱毛症」などのキーワードが役立ちます。
ただし、「AGAクリニック」と「脱毛症を幅広く診断する皮膚科」は必ずしも同じではありません。急に抜け毛が増え、その前に体調不良や栄養状態の変化があった場合には、最初からAGAだけを前提とした自由診療を受けるより、まず原因を鑑別できる皮膚科、できれば皮膚科専門医の診察を受けるほうが適しています。
特に基礎疾患や服用薬がある場合は、必要に応じて内科などへ紹介できる総合病院の皮膚科も選択肢になります。紹介状が必要な病院もあるため、まず近隣の皮膚科を受診して必要なら紹介してもらう方法も現実的です。
栄養を取ればすぐ抜け毛が止まるとは限らない
食事量が戻ったあとも抜け毛が続くと、「栄養は取れているのになぜ治らないのか」と不安になることがあります。しかし毛髪には毛周期があるため、身体の状態が改善した時点と髪の状態が変化する時点が一致するとは限りません。
一方で、抜け毛の原因が本当に一時的な栄養状態の変化なのか、それとも男性型脱毛症、甲状腺疾患、貧血、頭皮疾患、薬剤など別の要因なのかは診察しなければ分かりません。長期間様子を見ることだけを前提にせず、抜け毛が明らかに増えている場合は一度医療機関で評価してもらうとよいでしょう。
また、自己判断で鉄や亜鉛などのサプリメントを大量に摂取することも推奨できません。欠乏の有無を確認せず過剰摂取すると別の問題につながることがあるため、必要な栄養補充についても医師や管理栄養士に相談するのが安全です。
早めに医療機関へ相談したいケース
抜け毛だけでなく、食欲不振や体重減少が再び進んでいる、強い倦怠感があるなど全身症状を伴う場合には、脱毛だけの問題と考えず医療機関へ相談してください。頭皮に強い炎症、痛み、膿、急速に拡大する脱毛部分などがある場合にも早めの皮膚科受診が適切です。
また、食事を十分取れない状態が再発した場合は、脱毛の治療以前にその原因となる消化器症状などの評価が重要になります。もともと診てもらっている医師がいる場合には、食事量が低下した期間とその後の抜け毛について伝えておくとよいでしょう。
脱毛にはさまざまな原因があり、インターネット上の写真や症状だけから確定診断することはできません。特に急な変化がある場合は、自己診断で市販薬や育毛剤を追加する前に原因を確認することが重要です。
まとめ
食欲不振などで十分な食事を取れない時期があり、その後に後頭部や側頭部を含む広い範囲で抜け毛が増えた場合、休止期脱毛症を含めたさまざまな原因が考えられます。身体への負担と実際に抜け毛が増える時期には時間差が生じることもあります。
最初の受診先は皮膚科が基本です。円形脱毛症しか診てもらえないと思う必要はなく、休止期脱毛症なども皮膚科領域に含まれます。近隣で見つからなければ、毛髪外来・脱毛症外来のある皮膚科や大学病院・総合病院を探すとよいでしょう。
受診時には、食事を取れなかった時期、体重変化、抜け毛が始まった時期、抜ける場所、服用薬などを時系列で伝えることが診断の助けになります。栄養不足だけと決めつけず、男性型脱毛症や貧血、甲状腺などを含めて必要な鑑別を受けることが、原因に合った対応への近道です。

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