ASDの人は嘘をつく・怒りやすい・悪口を言う?自閉スペクトラム症の特性と性格・行動を分けて考える

発達障害

身近な人とのやり取りで、嘘をつかれたように感じたり、少しでも対応が気に入らないと怒られたり、尊重されていないと感じた相手の悪口を言われたりすると、「これはASDの特性なのだろうか」と疑問に思うことがあります。

しかし、嘘をつく、丁寧に扱われないと怒る、悪口を言うといった行動そのものは、ASD(自閉スペクトラム症)の診断上の中心的な特徴ではありません。ASDでは社会的コミュニケーションや対人関係、柔軟な対応などに特徴がみられることがありますが、同じASDでも性格や行動は一人ひとり大きく異なります。

この記事では、ASDの基本的な特徴と、嘘・怒り・悪口などの行動をどのように分けて考えればよいのかを整理します。

ASDの中心的な特徴は「嘘」や「悪口」ではない

ASDは神経発達症の一つで、主に社会的コミュニケーションや対人関係の難しさ、限定された興味や反復的な行動、変化への対応の難しさなどが特徴とされています。米国国立精神衛生研究所(NIMH)も、ASDについて対人コミュニケーション・社会的相互作用の困難さと、限定された興味や反復的行動などを主要な特徴として説明しています。[参照]

厚生労働省の資料でも、曖昧な表現を理解しにくい、言葉を字義どおり受け取りやすい、相手の立場や気持ちを理解しにくい、急な変更や臨機応変な対応が苦手といった特徴が例示されています。ただし、これらはあくまで例であり、すべてのASDの人に同じ特徴があるわけではありません。[参照]

「ASDだから嘘をつく」「ASDだから悪口を言う」という結び付け方は適切ではありません。ASDという診断名だけから、その人の誠実さや人格まで判断することはできません。

ASDの人でも嘘をつくことはあるが、ASD特有とは限らない

ASDの人も、それ以外の人と同じように嘘をつくことはあります。失敗を隠したい、怒られたくない、自分を良く見せたい、相手を傷つけたくないなど、人が事実と異なることを話す理由はさまざまです。

一方、ASDのコミュニケーション特性によって、本人は嘘をついているつもりがないのに、周囲には「話が違う」と感じられる場合もあります。例えば質問の意味を違う方向に理解した、自分の記憶や認識をそのまま事実だと思って話した、曖昧な表現を異なる意味に受け取った、といったケースです。

具体的には、「昨日これをやった?」と聞かれたとき、質問した側は「全部終わらせたか」という意味で聞いていても、本人は「少しでも作業したか」と理解し、「やった」と答えることがあります。結果として話が食い違っても、意図的な虚偽とは限りません。

「丁寧に接してもらえないと怒る」はASDの特徴なのか

誰でも、乱暴な言い方や失礼な扱いを受ければ不快に感じることがあります。そのため「丁寧に扱われないと怒る」という行動だけではASDとの関係は判断できません。

ただしASDの人の中には、言葉を文字どおりに受け取りやすかったり、相手の声色や冗談の意図を読み取りにくかったりする人がいます。そのため、周囲には軽い冗談のつもりでも、本人には強い批判や侮辱のように感じられることがあります。

また、決まったルールや公平さを強く重視する人では、「自分にはこう接するべきだ」という期待から外れた対応に強いストレスを感じる場合もあります。ただし、それが怒鳴る、脅す、相手を侮辱するといった行動を正当化するわけではありません。

「尊重されていない」と感じやすい背景には認識のずれもある

対人コミュニケーションでは、同じ言葉でも受け取り方が異なることがあります。ASDの人の中には、相手の表情や暗黙の意図、場の空気を読み取ることが難しく、自分が軽視された、無視されたと受け止めてしまう場合があります。

例えば、忙しい同僚が短く「あとでお願いします」と答えただけでも、相手は単に時間がなかったのに、「自分だけ雑に扱われた」と解釈することがあります。反対に、ASDではない人がASDの人の率直な話し方を「冷たい」「見下している」と誤解することもあります。

このようなケースでは、どちらか一方が悪いと決めるより、「何を言われてどう受け取ったのか」を具体的に確認すると誤解が解けることがあります。

悪口を言うこともASDそのものの症状ではない

他人への悪口や陰口は、ASDの診断基準に含まれる特徴ではありません。悪口を言う背景には、怒り、嫉妬、不満、対人関係の癖、ストレス、育ってきた環境など多くの要素が考えられます。

ASDの人の中には、自分の不満を遠回しに表現することが苦手で、率直すぎる言葉になってしまう人もいます。例えば「私はあの人の説明が分かりにくい」と直接口にしてしまい、周囲から悪口のように受け取られるケースです。

しかし、意図的に相手の評判を落とそうとする、嫌がらせとして悪口を広めるなどの行動について、ASDだから仕方がないと説明することはできません。診断と対人行動上の責任は分けて考える必要があります。

ASDには個人差が非常に大きい

ASDの「S」はSpectrum(スペクトラム)を意味し、特徴の現れ方には非常に大きな幅があります。会話が得意な人もいれば苦手な人もいますし、感情表現が豊かな人もいれば控えめな人もいます。

NIMHも、ASDでは特徴、必要な支援、得意なこと、困難さに幅があるため「スペクトラム」と呼ばれていると説明しています。[参照]

そのため、身近な一人の行動を見て「ASDの人はみんなこうだ」と一般化することは避けたほうがよいでしょう。同じ診断名でも、人柄や価値観、経験、知的能力、併存する症状などによって対人関係は大きく異なります。

ASDと性格・マナー・別の問題を区別する

人間の行動は一つの診断名だけで説明できません。例えば怒りやすさには、本人の性格、ストレス、不安、睡眠不足、過去の人間関係、ADHDなどの併存症状が関係する場合があります。

また、相手を侮辱する、約束を何度も破る、意図的に嘘をついて他人を操作するといった行動がある場合、それをすべて「ASDの特性」として受け入れる必要もありません。発達特性への配慮と、他人を傷つける行動への境界線は両立します。

行動・特徴 考え方
曖昧な表現を理解しにくい ASDでみられることがある
予定変更を強く嫌がる ASDでみられることがある
相手の意図を読み違える ASDでみられることがある
嘘をつく ASD特有の特徴ではない
悪口を言う ASD特有の特徴ではない
暴言や嫌がらせをする 診断名だけで正当化できない

身近なASDの人とのやり取りでは具体的な言葉が役立つことがある

コミュニケーションのすれ違いが起きやすい場合には、「もっとちゃんとして」「普通に考えて」といった抽象的な表現より、具体的な言葉を使ったほうが伝わりやすい場合があります。

例えば、「その言い方は嫌だ」だけではなく、「私について○○という言葉を第三者へ話すのはやめてほしい」と伝えます。また、「丁寧に話してほしい」と要求された場合も、「怒鳴らず普通の声量で話すことはできるが、すべての要求に同意することはできない」と境界線を具体化できます。

厚生労働省の資料でも、ASDの人には曖昧な指示より具体的な表現のほうが伝わりやすい場合があるとされています。[参照]

困った行動が続くなら診断名ではなく「その行動」を基準に考える

相手がASDと診断されているとしても、「ASDだからこの行動は我慢しなければならない」と考える必要はありません。重要なのは、実際にどのような行動が起き、自分や周囲へどの程度の影響が出ているかです。

例えば、コミュニケーションの勘違いなら、説明方法を変えることで改善できる可能性があります。一方で、暴言や執拗な悪口、脅迫などが続く場合には、距離を置く、職場なら上司や相談窓口へ相談するなど別の対応が必要になることがあります。

本人も対人関係で繰り返し困っている場合には、発達障害の診療経験がある医療機関や相談機関で、具体的な場面をもとにコミュニケーション方法について相談する選択肢があります。

まとめ|ASDだから嘘・怒り・悪口があるとは言えない

ASDでは、相手の気持ちや暗黙のルールを理解しにくい、曖昧な表現を受け取りにくい、予定変更への対応が難しいなどの特徴がみられることがあります。その結果として、人間関係ですれ違いが起こることはあります。

しかし、嘘をつく、丁寧に扱われないと怒る、尊重されないと悪口を言うという行動そのものを「ASDだから」と説明することはできません。性格、経験、ストレス、認識のずれ、ほかの心理的要因なども考える必要があります。

ASDへの理解や配慮は重要ですが、それと同時に相手を傷つける行動まで無条件に受け入れる必要はありません。診断名だけで人を判断するのではなく、「どんな場面で、どんな言葉や行動が起きているのか」を一つずつ具体的に整理することが、より適切な理解と対応につながります。

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