トランスジェンダーの人々が抱える心の性と身体の性との不一致に関する問題は、長らく医学や社会的な視点から議論されています。近年、世界保健機関(WHO)のICD-11において、トランスジェンダーに関連する項目が「精神疾患」の分類から除外され、社会的な理解が進んでいる一方で、依然としてその定義や認識には混乱が残っています。本記事では、トランスジェンダーが精神疾患とされない理由や、医療・社会的な視点からのアプローチについて解説します。
トランスジェンダーと精神疾患の定義
精神疾患とは、個人に著しい苦痛をもたらしたり、思考、感情、行動などに障害が生じて日常生活や社会生活に困難をきたす状態とされています。しかし、トランスジェンダーに関連する問題は、必ずしも精神疾患とは言えません。実際、心の性別と身体の性別に不一致を感じること自体が「病気」ではなく、身体的な性と認識される心の性に乖離があるという経験をすることは、個人の自己認識に基づく自然な状態であるとされています。
また、性別に関する違和感や苦痛が、精神疾患として分類される場合もありますが、これらの苦痛は必ずしも精神疾患を引き起こすものではなく、社会的、文化的な背景や環境によって変わるため、個別に評価する必要があります。
WHOとICD-11:トランスジェンダーの扱い
国際疾病分類(ICD-11)の最新版では、トランスジェンダーに関連する性別不一致の項目が「精神疾患」の分類から除外され、代わりに「性別不一致症」という新たなカテゴリに移行しました。この変更は、性別不一致を精神的な障害と見なすのではなく、身体的な性と心の性の違いによって生じる困難として扱うことを意図しています。
この変更は、トランスジェンダーの人々が精神的に病んでいるわけではなく、社会的な認識の問題や身体的な違和感からくる心理的ストレスの一環であるという理解を促進するものです。そのため、トランスジェンダーが経験する心の不一致が「病気」であると考えるのは、医療の視点から見ても不適切であるとされています。
トランスジェンダーにおける心と身体の性別の不一致
トランスジェンダーの人々は、身体の性と自己認識する性別が一致しないため、精神的な苦痛を感じることがあります。しかし、この苦痛は精神疾患の定義に含まれるものではなく、むしろ社会的な不理解や、身体的な性と心の性が一致しないことに起因する問題として捉えられるべきです。
また、脳の性分化に関する研究が進んでおり、脳の機能がどのように性別に影響を与えるかという問題も注目されています。性別に関する不一致が脳の性分化に関与しているという見解もあり、この点に関するさらなる研究が必要です。
社会的な認識とトランスジェンダーの権利
社会的には、トランスジェンダーの人々の権利を尊重し、彼らの性別認識を認める動きが広がっています。日本の最高裁判所では、「自分は女だと言い続けたら、戸籍や身体が男でも女だと認めます」という判決を出しており、トランスジェンダーの人々の自認を尊重する社会的な理解が進んでいます。
これは、医学的見解と社会的な認識が一致しつつあることを示しており、トランスジェンダーの人々が精神的に病んでいるわけではなく、自己認識と身体の性別の違いによって生じる心理的な困難であることが強調されています。
まとめ
トランスジェンダーに関連する問題は、精神疾患とは言えません。ICD-11における取り扱いの変更や、社会的な理解の進展により、心の性と身体の性別に不一致を感じることが必ずしも病気であるとは限らないという認識が広まりつつあります。トランスジェンダーの人々が直面する問題は、医学的な観点からも社会的な理解からも、より包括的に捉えられるべきです。


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